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2017年3月31日

Aisia Law Office Newsletter 2017年3月号(Vol.6)

Aisia Law Office Newsletter 2017年3月号(Vol.6)

1.        はじめに

平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

このたび、アイシア法律事務所では、各分野のトピックを集めて、Aisia Law Office News Letter 2017年3月号(第6号)を作成いたしました。アイシア法律事務所の弁護士・スタッフが名刺交換をさせていただいた方を対象に情報提供とご挨拶のために毎月ニューズレターを配信させていただく予定です。

本ニューズレターが皆様の参考になりましたら幸いに存じます。

2.        離婚/男女トラブル:東京家裁、夫がローン完済後の自宅に住んでいることを理由に夫の婚姻費用の負担を増額すべきと判断

東京家裁は、平成28年8月10日、子どもを連れて別居を始めた妻が夫に対して婚姻費用を請求した事案において、夫が住宅ローンを全額完済した自宅に居住していることから、夫が負担すべき婚姻費用は相場よりも高額なものになると判断しました。

東京家裁は、婚姻費用の算定方法について、「婚姻費用の分担額は,義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して,義務者及び権利者の各基礎収入…の合計額を世帯収入とみなし、これを,…標準的な生活費指数…によって推計された権利者世帯及び義務者世帯の各生活費で按分して割り振られる権利者世帯の婚姻費用から、権利者の基礎収入を控除して、義務者が分担すべき婚姻費用を算定するとの方式に基づいて検討するのが相当である」と婚姻費用についての一般論を述べました。

その上で、上記考え方に従った婚姻費用は年額182万円(月額約15万1700円)となるが、夫が、住宅ローンを完済済みの自宅において単身居住しており、基礎収入割合において特別経費として考慮されている住居関係費を負担していないことを考慮すると、夫が支払うべき婚姻費用の額は月額18万円程度と認定しました。

本件において、東京家裁は夫が住宅ローンの完済を理由に婚姻費用分担額を増額しており、算定表を機械的に適用せずに婚姻費用の額を算定しています。他方、妻が別居により実家に戻ったような場合には、居関係費の負担がないにもかかわらず婚姻費用の額に影響しないという実務上の運用がされています。実務上の運用に対して本審判の判断が今後どのような影響を与えるかが注目されます。

3.        遺言/相続:法制審議会 遺言制度の見直しを検討

平成29年1月24日、法制審議会民法(相続関係)部課第17会議において、下記のとおり遺言制度に関する見直しが検討されました。

  • 自筆証書遺言の方式緩和

現行法上、自筆証書遺言は全文自書しなければならないところ(民法968条)、財産目録等について自書要件の緩和が検討されています。所有する財産の全てを財産目録に自書することは多大な負担であるため、その負担を軽減し、遺言作成の促進を図ることが目的です。

  • 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し

現行上、相続分の指定又は遺産分割方法の指定により相続財産を取得した場合、相続人は法定相続分を超える部分について対抗要件なく第三者に対抗できるとされているところ(最高裁平成14年6月10日判決)、権利の承継について対抗要件を求めるとすることが検討されています。物権変動における対抗要件の要否は争いがあるところであり、今後議論が深められると思われます。

また、債務の承継についても、相続する相続人の資力によっては債権者に不測の損害を与えるため、債務の承継に関しても検討されています。さらに、不特定物の遺贈義務者の担保責任(民法998条)を削除し、遺言者が相続財産に属する物又は権利を遺贈の目的とした場合、遺贈義務者は相続開始時の状態での引渡し又は移転義務を負うものとすることが検討されています。

  • 自筆証書遺言の保管制度の創設

自筆証書遺言を作成する場合は遺言書の保管は実務上重要な問題となっています。保管場所が誰にでも分かってしまうと、偽造・隠匿等の危険がある一方で、分かりにくい場所に保管しておくと遺言書を紛失したり、死後に誰も遺言書を発見できないことがあります。そこで、自筆証書遺言の保管制度の設置が検討されています。

  • 遺言執行者の権限の明確化

遺言執行者は遺言内容の円滑な実現を職務とするものであり、そのため、遺言執行者の一般的及び個別的権限の明確化が検討されています。

4.        家族信託:横浜信金 家族信託の取扱いを開始

平成29年2月22日付日経新聞電子版において、横浜信用金庫が家族信託の取扱いを始めたことが紹介されています。家族信託の取扱いは県内の信用金庫では初めてとのことです。

横浜信用金庫の狙いは、高齢者に判断能力があるうちに家族信託スキームによって、不動産等の資産管理・処分を家族に委ねるニーズを掘り起こすことにあるようです。最終的には、家族信託の活用からアパートローンの契約に誘導し、アパートローンの金利収入を得て、5年後には横浜信金の年間融資額約9000億円のうち3%程度は家族信託を活用したアパートローンで占める意向とのことです。

高齢化や認知症の対策については今後ますます需要が増えてくるものと思います。アパートを所有している親が認知症になると、不動産の管理・処分が困難になります。このような認知症対策の方策として家族信託が金融機関からも期待されていることを示すものとして注目されるニュースです。

5.        不動産:住友不動産㈱、住友不動産販売㈱を完全子会社化へ。リフォーム需要の増加を背景に

住友不動産株式会社は、平成29年3月17日、連結子会社である住友不動産販売株式会社の普通株式を1株当たり3600円の買付価格により公開買付して、同社を完全子会社化する方針を決定しました。

先般、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会が公表した「平成28年度 住宅リフォーム実例調査」の結果によれば、リフォーム工事の平均契約金額は前年度に比べ約18%上昇し、価額帯としても中・高額リフォームの割合が増加したとのことです。空き家や既存住宅の流通の活性化を推進する国の政策もあって、中古住宅流通市場や住宅リフォーム市場は、今後ますますの活況が予想されます。

住友不動産株式会社も、今回の公開買付の目的は、市場規模の拡大及び競争激化が見込まれるという事情環境において、グループの有する経営資源の集約及び市場情報の一元管理を更に推進し、グループ全体の企業価値の最大化を図ることにあると説明しており、市場環境の変化を踏まえた不動産流通業界における事例として同社による公開買付は注目に値するニュースと言えそうです。

ところで、最高裁平成28年7月1日判決は、全部取得条項付種類株式とすることにより株式の全部を取得する取引について、二段階買収に際して、多数株主又は対象会社と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、公開買付に応募しなかった株主の保有する株式も公開買付価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により公開買付が行われた場合には、取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、買付価格をもって相当な取得価格とすることができる旨を判示しています。

今回の公開買付においても、同社は、プレスリリースに際して、株式売渡請求の相手方株主に対し交付する対価は公開買付価格と同額とすることを明示した上で、買付価格の決定に際しては、買付価格の公正性を担保し利益相反を回避するため、独立した法律事務所からの助言、独立した第三者委員会の設置等の措置を講じたこと、独立した第三者算定機関から取得した市場株価法及びDCF法に基づく算定の結果に加え、同種事例において価格決定の際に付与されたプレミアムの実例、市場株価の動向等を踏まえたこと等、買付価格の決定に至ったプロセスを明らかにしています。

このように、今回の公開買付は、前掲最高裁判決を踏まえつつ、株式売渡請求をする場合の実務的な対応に関するものとして事例的価値があることも指摘できます。

6.        労働法:最高裁 労働者が精神的健康に関する情報を申告しなかったことについての過失相殺を認めず

最高裁は、平成26年3月24日、労働者が過重な業務によって鬱病を発症し増悪させた場合において,使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償の額を定めるに当たり,当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったことをもって過失相殺をすることはできないと判断しました。

その理由として、当該労働者が使用者に提供しなかった情報は、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので、労働者にとって自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であって、使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている点を挙げています。

もっとも、本件において当該労働者が頭痛等の体調不良の情報を申告していた事実を考慮すると、労働者が自らの精神的健康情報を全く申告せず、使用者において労働者の体調変化を認識できない状況にあったときまで本判決の射程が及ぶかについては、今後どのような判断がなされるかが注目されます。

 

7.        企業法務:不適切な会計・経理を開示した上場企業数、平成20年以降最多に

株式会社東京商工リサーチは、平成29年3月15日、昨年1月から12月にかけて不適切な会計・経理を開示した上場企業は57社あり、平成20年以降で最多を記録したとの調査結果を報告しました。同社の追跡調査によれば、平成20年に不適切な会計・経理を開示した上場企業は25社あり、その後現在に至るまで、右肩上がりに増加しているとのことです。

同社は、企業側で株主が求める業績、利益の拡大を追求し、目標達成に向けて設定したノルマの進捗管理を厳しく行っている反面、現実味を欠いた目標設定や進捗管理が独り歩きした結果、コンプライアンス違反に繋がるケースも目立つこと、時価会計や連結会計などに厳格な会計手続の知識が求められ、現場で処理についていけず会計処理手続の認識の誤りも生じていることなどが、急増の背景にあると指摘しています。

実際、不適切な会計・経理の内訳を見ると、売上の過大計上、費用の繰り延べ及び不明瞭な外部取引など、業績や営業ノルマの達成を目的とするもの並びに経理会計処理上の誤りが8割以上を占めていることも分かります。

このような不適切な会計・経理が発覚すると、企業の信用失墜を招くことは当然ながら、各種業法に基づいて重大な行政処分がなされること等も考えられます。その場合、企業活動は著しく困難になり、適切な会計・経理の処理に直接関与していない役員等であっても、巨額の損害賠償を求める株主代表訴訟の被告となるリスクがあることが指摘できます。

経営サイドとしては、目標や進捗管理を現実的に達成可能な水準において設定すると共に、現場レベルで働く従業員一人一人に法令順守の精神が浸透して、不正を未然に防止することのできる体制作りを推進していく必要があります。