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2017年4月30日

Aisia Law Office Newsletter 2017年4月号(Vol.7)

Aisia Law Office Newsletter 2017年4月号(Vol.7)

1.        はじめに

平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

このたび、アイシア法律事務所では、各分野のトピックを集めて、Aisia Law Office News Letter 2017年4月号(第7号)を作成いたしました。アイシア法律事務所の弁護士・スタッフが名刺交換をさせていただいた方を対象に情報提供とご挨拶のために毎月ニューズレターを配信させていただく予定です。

本ニューズレターが皆様の参考になりましたら幸いに存じます。

2.        離婚/男女トラブル:東京高裁、養育費の算定に当たり潜在的稼働能力に基づく収入を基礎とする際の要件について判示

東京高裁は、平成28年1月19日、離婚後に夫が妻に支払うべき未成年者の養育費の算定にあたっては、夫の実収入額ではなく、夫の潜在的稼働能力に基づく収入額を基礎とすることができると判断しました。

東京家裁は、養育費の算定について、「養育費は、当事者が現に得ている実収入に基づき算定するのが原則であり、義務者が無職であったり、低額の収入しか得ていないときは、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて、義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したとしたら得られるであろう収入を諸般の事情から推認し、これを養育費算定の基礎とすることが許されるというべきである」と判示しました。原審は、賃金センサスを参考として、夫が失職した以降も従前の収入と同程度の収入を得られたはずであると認定し、その金額を基準に養育費を算定しましたが、東京高裁は、「夫の主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮していないものであり、妻との養育費分担との関係で公平に反すると評価されるものかどうか、また、仮にそのように評価されるものである場合において、夫の潜在的稼働能力に基づく収入はいつから、いくらと推認するのが相当であるかは、夫の退職理由、退職直前の収入、就職活動の具体的内容とその結果、求人状況、夫の職歴等の諸事情を審理した上でなければ判断できないというべきであるが、原審は、こうした点について十分に審理しているとはいえない。」として、原審での審理が不十分であるとして東京家裁立川支部に事件を差し戻しました。

東京高裁は、養育費の算定にあたり潜在的稼働能力に基づく収入を養育費算定の基礎とするためには、①就労が制限される客観的、合理的な事情がないこと、②主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮していないこと、かつ③潜在的稼働能力を発揮していないことが養育費の権利者との関係で公平に反することという3つの要件が必要だと判断しています。原審が①の要件のみで潜在的稼働能力に基づく収入を養育費算定の基礎とすることを認めたのに対し、東京高裁は②、③の要件を加えるべきと判示したことにより、同種請求が認容されるためのハードルが高くなったものといえます。

また、本裁判例においては、①、②について原審における事実認定が不十分であるとして事件が差し戻されたため、3つ目の要件である公平性につき、具体的にどのような事情があれば公平に反するかどうかはいまだ明確とはなりませんでした。

今後本裁判例を先例とした裁判においてどのような判断がされるかが注目されます。

3.         遺言/相続:5月下旬から相続手続きが簡易化されます。

法務省は、平成29年4月17日、全国の登記所において相続手続に利用できる「法定相続情報証明制度」の開始を公表しました。

法定相続情報証明制度は、被相続人の法定相続人が誰であるかを公的に認証する制度です。申出人が法定相続情報一覧図を作成し、戸籍関係書類一式とともに登記所に提出して、、登記官が内容の正確性を確認すると、法定相続情報一覧図写しが交付され、相続手続きに利用できる制度です。

相続手続きの際、各窓口で戸籍関係書類の提出を都度要求されますが、相続に関係する戸籍一式を取得するのは煩雑で費用もかかります。このため、預貯金の払戻し等がスムーズになされるのと異なり、不動産の名義変更手続きは後回しにされることが多く、不動産所有者不明や空き家増加の一因となっていました。そこで、不動産登記規則(第18条関係等)を改正して手続きを簡易化し、相続手続きを促進させることが目的です。

交付にあたっての手数料は無料で、当面は不動産登記手続きで利用することができます。また、今後、他省庁や民間金融機関などでも使えるようにすることが想定されています。

法定相続情報証明制度によって相続手続きを簡単に行うことができるようになり、未了のまま放置されている相続登記が促進されることが期待されます。

4.        匿名組合:最高裁 営業者の善管注意義務を厳格に判断

最高裁は、平成28年9月6日、営業者の代表者と匿名組合員との間に実質的な利益相反関係が生じた事案において、匿名組合員の承諾がない限り、営業者は善管注意義務に違反すると判断して、営業者に対する損害賠償請求を認めなかった原審を破棄する旨を判示しました。

本件は、匿名組合契約の営業者であるY1社がA社の新株予約権付社債を引き受けたところ、A社がY1社の代表取締役Y2及びその弟であるY3から株式譲渡を受けた事案でした。最高裁は、本件事案においては、(i)匿名組合契約における営業者Y1の代表者Y2及びその弟Y3と匿名組合員との間に実質的な利益相反関係が生じること、(ii)各取引の金額が匿名組合契約に基づく出資額の1/2以上に及ぶことに照らすと、一連の行為は組合員の利益を害する危険性が高いことを指摘しました。その上で、本件における一連の行為については、匿名組合員の承諾を得ない限り、営業者の善管注意義務に違反すると判断しました。

匿名組合契約における営業者の善管注意義務や利益行為の避止義務について明文の定めはないところ、かかる論点に関する判例として重要な意義を有するものと思われます。共同事業を行うケースや共同事業に関するご相談が増加しておりますが、共同で事業を行う場合は紛争のリスクも高くなるため、本判例等も踏まえた上で法律関係や損益分担を予め整理しておくべきでしょう。

5.        不動産:東京都、マンション管理ガイドラインを改定

東京都は、平成29年3月30日、「マンション管理ガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)を改定しました。

本ガイドラインは、分譲マンションについて新規分譲時に分譲事業者等が購入予定者に対し説明することが望ましい事項(分業事業者編)や、適正な管理や円滑な再生に向けて管理組合が行うことが望ましい事項(管理組合編)を取りまとめれていました。

今回の改定では、従来の分譲事業者編、管理組合編に加えて、新たにマンション管理業者編及びマンション管理士編が設けられ、マンション管理業者及びマンション管理士の役割や、業務に当たり行うことが望ましい事項が追加的に定められました。

本ガイドラインの改定によれば、管理業者は、定期的に管理事務の処理状況を管理組合に報告し、宅地建物取引業者がマンションの財務・管理などに関する情報提供を求めてきた場合は、管理受託契約の内容に応じて、情報開示するものとされます。既存マンションの購入を予定する者に対し、適時に適切な情報提供がされることで、取引の適正を確保すると共に、流通を活性化する狙いがあるものと考えられます。

さらに、管理業者について、管理受託契約の範囲において、災害又は事故等の事由により管理組合のために緊急に行う必要がある業務で、管理組合の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、管理組合の承認を受けないで実施することができるとした上で、その業務の内容及び実施に要した費用について管理組合に通知することを定めています。これは、防災意識の高まりを背景とする改定と考えられます。

今後は、マンション管理業者及び管理組合の間で同改定を踏まえた議論が活発化し、管理受託契約の見直しが進むことが期待されます。

6.        労働法:最高裁 職場におけるセクシャル・ハラスメント等を理由としてなされた出勤停止処分を有効と判断

最高裁は、平成27年2月26日、会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効であると判示しました。

その判断は、①本件各行為の内容や態様(女性従業員に対する1年余にわたる多数回に及ぶ性的な言動)、②会社におけるセクハラ防止のための各種取組と管理職としての立場(会社が従業員らに対しセクハラの禁止文書を周知させ、研修への毎年の参加を義務付ける等の取組を行っており、また、本件の男性従業員は、管理職としてかかる会社の取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあったこと)、③本件各行為が会社の企業秩序に与えた影響(本件の女性従業員は本件各行為が一因となって辞職せざるを得なくなったこと)等の事情を考慮しています。

本判決は、本件各行為のような言葉によるセクハラについて一般的に出勤停止以上の懲戒処分が相当であるとする趣旨のものではなく、本件事案の事実関係等に照らして30日及び10日の出勤停止という処分の量定が使用者の裁量の範囲内に属するものとして是認され得ることを判示したものと考えられます。

職場におけるセクハラが問題となる中で、悪質なセクハラ行為に対してどの程度の懲戒処分が許容されるかに関して判断した事例として注目されます。

 

7.        企業法務:特定譲渡制限付株式の普及進む

日経新聞電子版は、平成29年4月3日、特定譲渡制限付株式を役員報酬として採用する企業が増えていると報じました。

特定譲渡制限付株式は、法人から役員に対して付与される株式で、役員による役務提供の対価として交付される一定期間の譲渡制限その他の条件が付されている株式のことをいいます。このような方法による役員報酬の付与には、離退職の引き留め作用があるとされています(リストリクテッド・ストック)。また、一定の業績目標を達成したことを譲渡制限の解除の条件とした場合には、業績向上のインセンティブが働くことも期待できます(パフォーマンス・シェア)。これらにより、株主目線の経営を促し健全なインセンティブ付けがなされることが期待されます。

なお、特定譲渡制限付株式の導入に当たっては、払込をすることなく無償で株式を発行することを認めていない会社法との関係で、適法性が議論されていましたが、この点については、法人が役員に対し業績に連動する金銭報酬債権を付与し、役員が当該金銭報酬債権を現物出資して株式を取得するというスキームにより、会社法の規制の潜脱にはならないとされています。

日本企業の役員報酬は依然として固定報酬中心であり、英米と比して業績連動報酬や株式報酬の割合が低く、業績向上のインセンティブが効きにくい状況にあります。今後、こうした報酬体系の違いが、グローバルに経営人材を獲得し、我が国の有能な経営人材と統一的な管理を行う体制の構築に障害となる可能性もあります。

コーポレート・ガバナンス・コードにおいても、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきことが明記されており、日経新聞電子版の報道内容は、上記のような問題意識の高まりを背景とするものといえそうです。