リニア中央新幹線関連工事の入札を巡り、東京地方検察庁特捜部は18日、公正取引委員会と協働で鹿島建設と清水建設の家宅捜索手続を実施しました。
この事件に関するBloombergの報道記事において、企業法務の分野で多数の取扱実績がある法律事務所としてアイシア法律事務所が紹介され、当事務所の小林嵩弁護士のコメントが掲載されました。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-18/P1518D6S972801
今回特捜部が家宅捜索の実施に踏み切った経緯の詳細は未だ明らかではありませんが、報道によれば被疑事実は独占禁止法(以下「独占禁止法」といいます。)の禁止する不当な取引制限に関与した疑いに関するものであるとされます。
この点、独占禁止法第2条第6項によれば、不当な取引制限とは「事業者が、契約、協定その他何らの名義を持ってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいうとされ、同法第3条においてこれを禁止し、これに違反する行為は排除措置命令(同法第7条)、課徴金納付命令(同法第7条の2)、更には刑事罰の対象となるともされます(同法第89条ほか)。
その趣旨は、公共の利益に反する競争の実質的な制限に当たる行為を排除し、公正且つ自由な競争を実現することを通じて、独占禁止法の究極の目的である、国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあると考えられています。
今回の被疑事実はJR東海という私企業が発注したリニア中央新幹線関連工事の入札に関するものとされていますが、同工事の規模は総工費にして9兆円にも上り、国家の一大事業に匹敵するものといえます。検察としては、民間工事とはいえ、このような巨額の資金を拠出する事業の実施に際して、日本を代表する大手ゼネコンが不当な取引制限に及んだとすれば、これを放置することは業界の悪しき風習を許すこととなり、かつ国民経済に与える悪影響も甚大であることを考慮し、厳しい姿勢で今回の捜査に踏み切ったと考えられます。また、今回の家宅捜索に際して、検察は事前に報道機関に対し、家宅捜索の実施を予告していたと聞いておりますが、事件が大きく報道されることを通じて不当な取引制限に対する厳しい姿勢をアピールする狙いもあるといえそうです。
まだ捜査の初期段階であり、刑事罰等に言及するのは時期尚早ですが、仮に刑事処分に至らないとしても課徴金納付命令等が科される可能性もあり、今後の捜査の行方には目が離せません。