テレビ出演(めざましテレビ):電通への強制捜査について

 

電通の本社・支社に対して、2016年年11月7日、厚生労働省は強制捜査を行いました。電通の強制捜査について、坂尾陽弁護士が2016年11月8日に放送されたフジテレビ「めざましテレビ」様においてコメントしました。

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1. 電通の強制捜査の概要

電通に関しては、平成27年12月末に新入社員の女性が過労自殺をした事件(以下「電通過労死事件」といいます。)を受けて、過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)が立入調査を行っていました。なお、電通過労死事件に関しては、『電通過労死事件で坂尾陽弁護士が「めざましテレビ」から取材を受けました』の記事もご参照下さい。

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今回の電通の強制捜査は、立入調査の結果を受けて、電通過労死事件を書類送検する方針を固めた厚生労働省によって行われたものです。強制捜査は、単なる行政法規の取締目的で行われる立入調査とは異なって、犯罪として捜査する目的で、刑事訴訟法に基づいて捜索差押令状の発付を裁判所から受けて行われたものと考えられます。

2. 書類送検と強制捜査の関係

書類送検は、犯罪として捜査した事件について、捜査機関が犯罪の証拠や資料を検察官に送付することです。最終的には、検察官が起訴するか否か、起訴する場合の手続きや求刑を決めることになります。しかし、書類送検されることは、捜査機関が犯罪として立件できると考えたことであり、大きなインパクトではあります。

しかし、書類送検と強制捜査は必ずしも同じではありません。強制捜査を行わなくても、犯罪を証明できる証拠がある場合は、強制捜査を行うことなく、書類送検がされることがあります。東京労働局と大阪労働局の公表資料によれば、書類送検された事案のうち、強制捜査が行われた事案は約10%程度に過ぎないようです。

しかし、近年、違法な長時間労働が社会的に注目されていることもあり、違法な長時間労働に対しては厳正な対処がなされる傾向があります。大阪労働局は、「違法な長時間労働を繰り返す企業や法違反を原因として重大な労働災害を発生させた企業等に対しては、司法警察権限を積極的に行使するとともに、厳正に対処することとしている。」と公表しています。

また、「かとく」が関与した案件では、過去にも強制捜査を行った上で書類送検がなされています。電通過労死事件も「かとく」が関与している案件です。重大な事件であり、「かとく」が関与するのであれば、強制捜査・書類送検を行って、違法な長時間労働撲滅のために厳正な対処を行うということかもしれません。

3. 電通の本社・支社への大規模な強制捜査

また、今回の電通の強制捜査は、本社・支社に対する大規模な一斉の強制捜査です。大規模な強制捜査を行った思惑はどのようなものでしょうか。

3.-(1) 組織的な長時間労働への疑い

まず、電通グループ全体において、組織的に違法な長時間労働が常態化していたことを厚生労働省が疑っているのだと考えられます。「かとく」が関与した過去の案件においては、対象企業が小売業であり、小売店舗に対して強制捜査を行う意味は乏しいと考えられます。これに対し、電通の支社や子会社であれば、そのトップは電通グループの経営幹部や有力候補であるはずです。単に電通本社だけではなく、このような電通グループの経営幹部等も含めた電通グループにおいて組織的に違法な長時間労働が常態化していたという疑いを有しているのではないかと考えられます。

3.-(2) 厚生労働省による一斉捜査

電通の強制捜査は、電通本社・関西支社のほか全国的に行われています。東京労働局、大阪労働局を初めとして、各地の労働基準監督署から職員が動員されています。全国的な一斉捜査は、厚生労働省が主導となって行われたと考えるのが自然です。

すなわち、電通の強制捜査は、厚生労働省が主導し、国として違法な長時間労働撲滅を行うという強い姿勢を伺うことができます。今まで見過ごされがちであった長時間労働問題に対して、国として厳正に対処するという方針転換を感じます。

4. 電通の強制捜査による影響

電通の強制捜査は、優良企業に対する大規模な強制捜査であり、電通が掲げた取組みを無視するかのように行われたもので大きなインパクトがあります。電通の強制捜査は、今後どのような影響を及ぼすでしょうか。

 

 

4.-(1) 電通の強制捜査のポイント①:優良企業の強制捜査

電通の強制捜査は、有名な優良企業である電通に対して強制捜査が行われたという点で大きなインパクトがあります。外食チェーン店の過労死事件は、低賃金の過酷な労働環境で長時間労働を余儀なくされて過労死に至ったものです。これに対し、電通は誰もが羨む大企業であり、電通の社員は、類を見ないを高給を得てやりがいを持って働いているというイメージを持っていると思います。

このような優良企業であっても、違法な長時間労働によって尊い人命が失われた以上は他事案と異なることなく、強制捜査・書類送検を行うということを電通の強制捜査は示唆しています。つまり、違法な長時間労働が問題の核心であり、優良企業であるとか、高給であるとかは関係がないとするのが国のスタンスだということです。

電通よりも、待遇が低く、労働環境が劣悪でありながら、電通と同様の長時間労働が常態化している中小企業はないとは言えません。中小企業の実態を考えた場合に、電通のような優良企業であっても、強制捜査の対象となることはかなり大きなインパクトだと考えられます。

4.-(2) 電通の強制捜査のポイント②:企業の取組みを無視した強制捜査

電通の強制捜査においては、電通側の取組みを無視するかのように強制捜査が行われました。電通は、電通過労死事件を受けて、電通において午後10時から午前5時までの全館消灯を行うとの方針を打ち出しました。また、電通は、平成28年1月1日には、電通過労死事件の再発防止を目的とする「電通労働環境改革本部」を設置しました。

しかし、電通の強制捜査は、このような電通側の取組みを無視するかのように実施されました。たしかに、電通の取組みは形式的なものだという批判もあります。しかし、電通過労死事件を受けて、迅速に企業として長時間労働問題に対処する姿勢を見せたのも事実です。

電通が優良企業であり、少なくとも本件に対応する姿勢を見せていたことからすれば、電通における取組みを尊重した上で更なる改善を促すという対応も考えられます。それなのに、電通の強制捜査が行われたことは、事後的に対応したり、反省を示すのでは全く意味がないというメッセージではないでしょうか。過労死問題は、あくまで違法な長時間労働を撲滅することで事前に防止するべきであり、既に問題が生じた後は厳しく対処するという強い姿勢を感じます。

4.-(3) 電通の強制捜査による影響と今後の展望

電通の強制捜査は以上の点で大きなインパクトがあるものです。電通の強制捜査による影響としては、まず違法な長時間労働が常態化している他企業に対して危機感を生じさせることが考えられます。これまで労働法規の違反を軽視していた企業経営者や、やむを得ず長時間労働が生じていた中小企業は、有名な大企業である電通でも強制捜査がなされて書類送検によって刑事責任が生じるとなれば大きな危機感を感じるはずです。

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また、違法な長時間労働によって過労死事件が生じた後に企業が労働環境を改善する取組みを行っても無駄であり、過労死問題は事前に対応するしかないことは、中小企業にとって大きな抑止力になると考えられます。人命が失われることは取り返しがつかないという当たり前のことを再確認した上で、取り返しがつかない事態を避けるために細心の注意を払う必要があります。

違法な長時間労働は、中小企業が生き残るためにやむを得ないといった主張はもはや通じるものではありません。違法な長時間労働を撲滅しながら、中小企業が生き残るためには生産性を向上するために必死に知恵を絞るしかありません。長時間労働の撲滅は、働き方改革・生産性向上を掲げるアベノミクスの方針とも合致するものです。国の方針として、違法な長時間労働をやむを得ないと受け入れるのではなく、働き方改革・生産性向上によって根本的に撲滅すべきと考えているのかもしれません。

今後、企業としては労働問題対応の重要性が高まることはもちろん、生産性向上のための企業努力が行われることになります。さらに、国として本格的に生産性向上を目指す方針であれば、生産性向上達成のインセンティブとなる施策が増加するはずですので、企業経営者としては情報のキャッチアップが必要です。

いずれにせよ、電通の強制捜査によって、今まで見過ごされてきた違法な長時間労働問題が本格的に撲滅されることを期待することができます。

 

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