小林嵩弁護士がサブリース問題について「NEWS23」に出演しました
女性専用シェアハウスの運営会社が、シェアハウスのオーナーに対し、2017年末頃から、サブリース契約に基づく保証賃料の減額を求め、支払を停止している問題について、アイシア法律事務所の小林嵩弁護士が不動産問題に詳しい弁護士としてTBSテレビ「NEWS23」(2018年2月15日放映分)のコーナーに出演し、コメントの一部が放映されました。
サブリース契約とは
サブリース契約には様々な種類がありますが、代表的なものは、サブリース会社がオーナーから物件を一括で借り上げて、オーナーに対しては固定賃料の支払を保証しつつ、入居者から賃料を収入するものになります。
通常の賃貸経営では、オーナーが入居者と直接貸借契約を取り交わします。しかし、サブリース契約では、サブリース会社が一括借上を行います。このため、オーナーは賃貸管理の煩わしさから解放され、空室の有無にかかわらず一定の賃料収入を期待することができます。他方、サブリース会社としても、オーナーに対する賃料額よりも有利な条件で客付けができれば、入居者からの賃料収入との差額で儲けを上げることができます。
オーナーは、賃料が若干低額でも空室リスクを始めとする事業リスクを回避することが可能となりますから、サブリース契約という仕組みそのものは、合理的な一面を有していると言えます。
サブリース会社による賃料減額請求の可否について
オーナーとサブリース会社の関係は、安定的・継続的なものであることが通常想定されています。しかし、不動産賃貸市況の急変等の影響を受けて、従前のサブリース契約関係を維持することが困難となる事態が生じ得ます。
本件が取り沙汰されるようになった以前にも、かつて賃貸ビルの需要が急増したバブル期に、サブリース事業が注目を浴びたことがありました。そして、ご承知のとおり、間もなくバブルが崩壊すると、入居者からの賃料収入が急速に下落したため、サブリース会社がオーナーに保証した賃料を支払い切れず、賃料の減額を求める訴訟が頻発したのです。
この問題は、一定の賃料の支払を保証するというサブリース契約の本質的要素にもかかわらず、サブリース会社が、「建物の借賃が、(中略)不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と定める借地借家法第32条第1項に基づいて、オーナーに対する支払賃料の減額を求めることができるかという形で争われました。
当時、地裁・高裁レベルでは、(i)サブリース契約の共同事業契約としての性質や、(ii)賃料不減額の特約が契約の不可欠な本質的部分であることにかんがみ、同法第32条第1項に基づく減額請求を排斥する傾向が大勢でした。
しかし、最高裁判所は、平成15年10月21日第三小法廷判決において、賃料不減額の特約は、減額請求の当否や相当賃料額を判断する場合に重要な事情として十分に考慮されるべきとしつつ、結論としては、サブリース契約であっても減額請求は認められる場合があると判示しています。
ただし、前述のとおり、サブリース契約の種類は様々であり、個別具体的に契約内容及び従前の契約経緯を検討した上で、当否の問題として賃料減額請求を排斥する余地があることは同最高裁判決をもって変わりないことには注意が必要です。
サブリース会社から賃料の減額を申し入れられた場合の対応について
サブリース契約の種類は様々であり、個別具体的な契約内容を検討しない限り、賃料減額請求が認められる事案であるか否かを判断することはできません。しかし、関らずしも賃料減額に応じる必要はありません。なお、契約当事者間で賃料の減額を合意すると、その合意を覆すことは容易ではありませんから、軽々に請求に応じてはならないことは言うまでもありません。
また、賃料減額請求を退けられる場合でも、サブリース会社が賃料の支払いをストップすると、賃料債務の懈怠が継続している以上は債務不履行を理由としてサブリース契約を解除し自主経営に転換せざるを得ない場合も考えられます。また、サブリース契約を解除して第三者に物件を売却することも選択肢の一つであると言えます。
他方、金融機関からの多額の借入により物件を取得した場合には、金融機関と約定金利の変更やローン債務の一部カットを交渉する必要がありますが、それすらかなわないときは破産手続の申立て等も視野に入れざるを得ません。
一般の方がこれらの手続を取捨選択してご自身の判断で進めることは通常困難と思われます。どの手続が適当であるか多面的・多角的に検討した上、ご本人に代わり行うことができるのは法律専門家である弁護士に限られます。
したがって、サブリース会社から賃料の減額等を申し入れられてお困りの方は、ご自身で軽々に判断して対処しようとするのではなく、契約書をお持ちになって不動産問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。
オーナーに対し多額の貸付を実行した金融機関の責任について
なお、本件問題を取り上げる一部報道の中には、オーナーの大半が不動産賃貸に精通しているとは必ずしも言い難い個人の方であるにもかかわらず、事業計画を十分に精査することのないまま多額の貸付を実行したとして、金融機関の責任に言及しているものもあります。
個別具体的な事情次第であるため、法的な責任については何とも申し上げられませんが、オーナーとなろうとする方の返済能力や自己資金の準備の有無、物件の担保価値等の事情を総合的に審査し融資を実行する金融機関の立場とオーナーの立場は異なるところがあるという点には注意が必要です。