婚約破棄になったとき、結納金や婚約指輪を返す必要があるのかは、多くの方が悩む問題です。「婚約を解消したのだから全部返すべきだ」と考える人もいれば、「相手が悪いのに返すのは納得できない」と感じる人もいます。

結論として、結納金や婚約指輪は、結婚することを前提として渡される金品であるため、婚姻に至らなかった場合には返還が問題になります。ただし、返還が必要かどうか、全額返すのか一部だけか、現物で返すのか金銭で精算するのかは、婚約破棄の原因、どちらに責任があるか、合意解約か、すでに婚姻が成立しているかによって変わります。

この記事では、婚約破棄で結納金・婚約指輪・結納返しを返す必要があるか、請求する側と請求された側の双方から整理します。

  • 結納金や婚約指輪は、結婚を前提とする贈与として返還が問題になります。
  • 贈った側に婚約破棄の原因がある場合、返還請求が制限されることがあります。
  • 受け取った側に原因がある場合は、返還や金銭精算を求められる可能性があります。
  • 双方原因・合意解約では、全額返還ではなく一部返還や全体清算になることがあります。
  • 結婚式費用、準備費用、慰謝料、結納返しまで含めて総合的に整理することが重要です。
執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

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まず結論|返還の要否は「婚姻の有無」と「婚約破棄の原因」で変わる

婚約破棄で結納金や婚約指輪を返す必要があるかは、単に「どちらから別れを言い出したか」だけでは決まりません。法律上は、結婚することを前提に渡された金品の目的が達成されなかったことと、その婚姻不成立について誰に責任があるかを分けて考える必要があります。

結納金・婚約指輪は結婚を前提とした贈与として扱われる

結納金や婚約指輪は、通常、将来婚姻することを前提として授受されます。そのため、婚約が解消されて婚姻しなかった場合には、渡した側が「前提がなくなった」として返還を求める余地があります。

もっとも、婚約破棄に至った原因が渡した側にある場合まで、当然に返還請求を認めると不公平です。たとえば、結納金を渡した側が不貞、暴力、重大な虚偽説明などにより婚約破棄の原因を作った場合、信義則上、返還請求が制限されることがあります。

大まかな返還目安

状況 結納金 婚約指輪 ポイント
受け取った側に婚約破棄の主な原因がある 返還が認められやすい 現物返還又は金銭精算が問題になりやすい 不貞、重大な虚偽、正当理由のない破棄などを証拠で示す
贈った側に婚約破棄の主な原因がある 返還請求が制限されやすい 返還請求が制限される可能性がある 有責者からの返還請求は信義則上問題になる
双方に原因がある・合意解約 一部返還、折半、各自負担などがあり得る 現物返還を基本に、他費用と合わせて清算することが多い 全部かゼロかでなく、原因・金額・他の清算を総合する
すでに婚姻が成立し夫婦生活を送った後の離婚 返還不要とされやすい 返還請求は難しくなりやすい 婚約破棄ではなく離婚の財産問題として整理する

結納金は婚約破棄で返還が必要になるか

結納金は、婚約の成立を明確にし、将来の婚姻に向けて当事者や両家の関係を厚くするために授受される金銭です。その性質上、婚姻しなかった場合には返還が問題になります。

婚姻しなかった場合は返還請求の出発点になる

婚約が解消され、結婚しなかった場合、結納金を受け取った側がそのまま保持する理由があるのかが問題になります。結納金は結婚を前提として渡されたものなので、婚姻が成立しない以上、原則論としては返還が検討されます。

ただし、これは「婚約破棄になれば必ず全額返す」という意味ではありません。婚約破棄の原因を作ったのが誰か、結納金以外に結納返しや結婚準備費用があるか、双方がどのように解消を合意したかを踏まえて判断されます。

贈った側に原因がある場合は返還請求が制限されやすい

結納金を贈った側が、正当な理由なく一方的に婚約を破棄した場合や、不貞、暴力、重大な嘘などで婚約解消の原因を作った場合、結納金の返還を求めることは認められにくくなります。

この場面では、結納金を受け取った側からすれば、「相手の行為で結婚できなくなったのに、結納金まで返すのは不公平だ」といえます。返還請求への対応では、相手側の有責性を示す証拠や時系列が重要になります。

受け取った側に原因がある場合は返還を求められる可能性が高まる

反対に、結納金を受け取った側が婚約破棄の原因を作った場合には、返還を求められる可能性が高まります。たとえば、受け取った側の不貞、結婚意思のない交際、重大な事実の隠匿、正当理由のない一方的破棄などが問題になります。

この場合でも、請求できる金額は結納金だけでなく、慰謝料、結婚式キャンセル料、準備費用などと一緒に検討されることがあります。費目ごとに根拠を分けて整理することが大切です。

双方原因・合意解約では一部返還になることもある

婚約破棄には、どちらか一方だけが明らかに悪いとはいえないケースもあります。両家の価値観の違い、結婚式準備での対立、親族との関係、将来の生活方針の不一致などが積み重なり、双方が婚約解消に合意することもあります。

このような場合は、結納金の全額返還か返還不要かという二択ではなく、一部返還や他の費用との相殺・総合清算で解決することがあります。東京地裁平成28年12月7日判決でも、合意解約とされた事案で、結納金100万円について2分の1の返金義務が認められました。

婚約指輪は返す必要があるか

婚約指輪も、結婚を前提に渡される贈り物です。そのため、婚約が解消されて婚姻に至らなかった場合には、結納金と同じく返還が問題になります。

婚約指輪は現物返還が基本になりやすい

婚約指輪が手元に残っている場合、まずは現物を返すかどうかが問題になります。婚約指輪は、結婚することを前提とした記念品であり、婚約が解消された以上、受け取った側が保持する理由が失われたと考えられることがあるからです。

もっとも、指輪を贈った側に婚約破棄の原因がある場合は、返還請求が制限される可能性があります。婚約指輪の返還でも、結局は「婚約が解消された原因は誰にあるのか」が重要です。

売却・紛失・処分済みの場合は金銭精算が問題になる

婚約指輪がすでに売却、処分、紛失されている場合は、現物返還ができません。この場合、購入価格相当額、現在価値、売却代金などを基準に金銭精算が問題になることがあります。

ただし、購入価格をそのまま返すべきとは限りません。指輪は購入時点から中古品となり、市場価値が大きく下がることがあります。また、処分に至った経緯、婚約破棄の原因、相手が返還を求めるまでの期間なども考慮されます。

結婚指輪・ペアリングは婚約指輪と分けて整理する

婚約指輪と、結婚指輪やペアリングは性質が少し異なります。結婚指輪は、挙式や婚姻生活で使用するために双方が購入することが多く、どちらが誰の分を支払ったか、未使用か使用済みか、刻印があるかによって扱いが変わります。

婚約破棄後に結婚指輪の費用を清算する場合は、指輪そのものの返還だけでなく、キャンセル料、返品可否、売却可能性、各自負担の合意を確認しましょう。結婚式キャンセル料や新居準備費用と一緒に清算する方が現実的なこともあります。

結納返し・記念品・親族が出したお金も同時に整理する

結納金や婚約指輪の返還だけを単独で話し合うと、他の金品や費用が抜け落ちることがあります。実際には、結納返し、時計などの記念品、両家の食事会費用、親族からの援助、式場費用なども関係します。

結納返しがある場合は片方だけを返すと不公平になる

結納金を返還する場合、結納返しをどう扱うかも検討が必要です。たとえば、結納金100万円を全額返す一方で、高額な結納返しや記念品を相手が保持する場合、全体として不公平になることがあります。

結納返しが現物で残っている場合は現物返還、すでに使用・処分されている場合は金銭評価、又は結納金返還額からの控除などを検討します。合意書では、結納金だけでなく結納返しや記念品も清算対象に含めると安全です。

本人間の贈与か両家間の授受かを確認する

結納金は、形式上は本人から本人へ渡したように見えても、実質的には両家間で授受されていることがあります。親が全額を出していた、親が受け取って保管していた、結納返しを親が準備した、というケースもあります。

返還請求をする場合は、誰が支出し、誰が受け取り、誰が現在保管しているかを確認します。親が出したお金であっても、法的な請求主体が当然に親になるとは限らないため、請求書や合意書の当事者を誤らないようにしましょう。

裁判例に見る結納金・婚約指輪返還の判断基準

結納金や婚約指輪の返還は、条文だけで機械的に決まる問題ではありません。裁判例では、結納の目的、婚姻が成立したか、婚約解消の原因、当事者や両家の関与、信義則などが重視されています。

最高裁昭和39年9月4日判決|婚姻成立後の離婚では結納返還義務なし

最高裁昭和39年9月4日判決は、挙式後に夫婦生活を続け、婚姻届出もされて法律上の婚姻が成立した後に離婚した事案で、妻に結納を返還する義務はないと判断しました。

この裁判例は、婚約破棄と離婚を分けて考えるうえで重要です。婚約破棄では、婚姻という目的が達成されなかったため返還が問題になります。他方で、婚姻が成立し夫婦生活を送った後の離婚では、結納の目的は一応達成されたとみられ、単に離婚したから結納金を返すという整理にはなりにくいです。

東京高裁昭和57年4月27日判決|有責者からの返還請求は認められにくい

東京高裁昭和57年4月27日判決は、婚約解消の有責者からの結納金返還請求が許されないとした裁判例です。婚約が解消されたからといって、原因を作った側が当然に結納金の返還を求められるわけではないことを示しています。

返還請求をされた側は、相手が婚約破棄の原因を作った事情を具体的に整理することが重要です。単に「自分は返したくない」というだけでなく、相手の不貞、暴力、重大な嘘、結婚準備への不誠実な対応などを証拠に基づいて示す必要があります。

東京地裁平成28年12月7日判決|合意解約では2分の1返還もある

東京地裁平成28年12月7日判決は、結婚準備中の対立を経て婚約が合意解約されたと判断し、結納金100万円について2分の1の返金義務を認めた裁判例です。また、結婚式の解約料や新居準備費用などについても、明示の合意がなくても各2分の1ずつ分担する合意が推認されるとして、一定額の負担が認められました。

この裁判例からは、双方原因や合意解約の場面では、全額返還か返還不要かという単純な結論ではなく、当事者間の公平を踏まえて一部返還や費用分担が検討されることが分かります。

福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日判決|双方に責任がある場合の整理

福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日判決は、結納者と結納受領者の双方に婚約解消の責任がある場合、結納受領者の責任が結納者側より重くない限り、結納返還義務はないとした裁判例です。

現在の実務で常に同じ結論になるとは限りませんが、双方に原因がある場合には、責任の程度を比較しながら返還の有無や範囲を検討する視点が重要です。婚約破棄の金品返還では、形式的な授受だけでなく、破綻に至る具体的経緯が結論を左右します。

返還を請求したい側が準備すべき資料

結納金や婚約指輪の返還を求めたい場合は、感情的に返還を迫る前に、証拠と金額を整理しましょう。返還請求では、婚約の成立、金品の交付、婚約解消、相手側の有責性、現在の保管状況が重要になります。

婚約成立と金品交付を示す資料

  • 結納式や両家顔合わせの写真、案内、領収書
  • 結納金の振込記録、現金授受のメモ、結納品目録
  • 婚約指輪の購入明細、保証書、鑑定書、写真
  • プロポーズ、結婚式場予約、両親への挨拶に関するメッセージ
  • 婚約解消に至るやり取り、相手からの破棄通知

結納金や婚約指輪の返還を求めるには、そもそも婚約が成立していたこと、そしてその婚約を前提として金品が渡されたことを示す必要があります。単なる交際中のプレゼントなのか、婚約を前提とした贈与なのかが争われることもあります。

相手側の有責性を示す資料

相手側に婚約破棄の原因があると主張する場合は、その根拠を具体的に示す必要があります。不貞であれば写真、メッセージ、探偵報告書、宿泊履歴などが問題になります。暴力や暴言であれば診断書、録音、LINE、警察相談記録などが重要です。

価値観の違いや親族間の対立が原因の場合は、一方的な有責性を立証しにくいことがあります。その場合は、結納金の全額返還だけでなく、一部返還や他費用との総合清算を視野に入れる方が現実的です。

請求額は購入価格だけでなく現在価値・控除も考える

婚約指輪について金銭精算を求める場合、購入価格をそのまま請求できるとは限りません。売却可能額、査定額、使用状況、刻印の有無などを確認しましょう。

結納金についても、結納返し、結婚準備費用、式場キャンセル料、慰謝料との関係を整理する必要があります。複数の費目を別々に請求すると、二重取りと反論されることがあります。

返還請求された側が確認すべき反論ポイント

結納金や婚約指輪の返還請求を受けた場合、請求額だけを見てすぐに支払う必要はありません。まずは、返還義務があるのか、あるとして金額はいくらかを確認しましょう。

請求している側に婚約破棄の原因がないか

相手が結納金や婚約指輪を贈った側であっても、相手自身が婚約破棄の原因を作っている場合は、返還請求が制限される可能性があります。相手の不貞、暴力、重大な虚偽、急な一方的破棄などがないかを時系列で整理しましょう。

「相手が別れを切り出したから相手が悪い」とは限りません。別れを切り出した理由が、相手の不貞や重大な問題にある場合は、破棄を伝えた側が有責とはいえないことがあります。

婚姻が成立していたかを確認する

結納金返還が問題になりやすいのは、婚約が解消されて婚姻に至らなかった場面です。すでに婚姻届を提出し、夫婦生活を送っていた後の離婚であれば、結納の目的は達成されたと評価されやすく、婚約破棄とは整理が異なります。

スピード離婚の場合でも、結納金や婚約指輪を当然に返す義務があるわけではありません。離婚後の金銭問題は、財産分与、慰謝料、婚姻費用、親族からの援助などと分けて検討します。

結納返し・準備費用・慰謝料を含めた全体清算か確認する

返還請求を受けた場合、結納金だけを返して終わるのか、婚約指輪、結納返し、結婚式キャンセル料、新居準備費用、慰謝料まで含めて清算するのかを確認しましょう。

一部だけ先に支払うと、後で別費目を追加請求されることがあります。支払う場合は、支払額、支払趣旨、残りの請求をしないこと、清算条項を合意書に明記することが大切です。

話し合いで解決するときは合意書を作成する

結納金や婚約指輪の返還は、感情的な対立が大きくなりやすい分野です。返還する場合も、返還しない場合も、話し合いで決まった内容は合意書に残すことをおすすめします。

合意書で決める事項 記載例の方向性
結納金 返還額、支払期限、振込先、分割の有無
婚約指輪 現物返還か金銭精算か、返還方法、送料負担
結納返し・記念品 返還対象、返還しない場合の清算額
結婚準備費用 式場キャンセル料、新居費用、前撮り費用などの負担割合
慰謝料 支払の有無、金額、支払期限、遅延時の扱い
清算条項 合意書に定めたもの以外に請求しないことを確認する

特に、結納金だけを先に返す場合は、それが最終解決なのか、後で慰謝料やキャンセル料を別途請求できるのかが争いになりがちです。合意書には、金品の返還だけでなく、婚約破棄に関する請求全体をどう処理するかを明確にしましょう。

よくある質問

婚約破棄になったら結納金は必ず返す必要がありますか?

必ずではありません。結納金は結婚を前提とする贈与なので、婚姻しなかった場合には返還が問題になりますが、婚約破棄の原因を作ったのが誰かによって結論が変わります。贈った側に主な原因がある場合は、返還請求が制限されることがあります。

婚約指輪を返したくない場合、返さなくてもよいですか?

相手に婚約破棄の主な原因がある場合は、返還を拒める可能性があります。ただし、婚約指輪が結婚を前提に渡されたものである以上、婚約解消後は返還が問題になります。返さなくてよいと断定せず、婚約破棄の原因、指輪の保管状況、他の清算内容を確認しましょう。

婚約指輪の代金を全額払えと言われた場合はどうすればよいですか?

購入代金全額を当然に支払う必要があるとは限りません。現物が残っていれば現物返還が基本になることがありますし、金銭精算の場合でも現在価値、売却可能額、使用状況、婚約破棄の原因が問題になります。請求書の根拠を確認しましょう。

結納金をすでに結婚準備に使ってしまった場合でも返還が必要ですか?

使ってしまったことだけで返還義務がなくなるとは限りません。ただし、結婚準備に使った金額、相手も利益を受けた支出、返金・売却できない費用などは、返還額や全体清算の中で考慮されることがあります。領収書や使途を整理しておくことが重要です。

結婚後すぐ離婚した場合も結納金や婚約指輪を返す必要がありますか?

婚約破棄の場合とは別に考えます。婚姻届を提出し、夫婦生活を送った後の離婚では、結納の目的は達成されたと評価されやすく、単に離婚したから結納金を返すという整理にはなりにくいです。離婚後のお金は、財産分与や慰謝料などの枠組みで検討します。

まとめ|結納金・婚約指輪は全額返還かゼロかでなく原因と全体清算で考える

婚約破棄で結納金や婚約指輪を返す必要があるかは、結婚を前提に渡された金品であることを出発点にしつつ、婚約破棄の原因、当事者の有責性、婚姻が成立したか、結納返しや準備費用の有無を踏まえて判断します。

  • 婚姻しなかった場合、結納金や婚約指輪は返還が問題になります。
  • 贈った側に婚約破棄の原因がある場合、返還請求は制限されることがあります。
  • 受け取った側に原因がある場合は、返還や金銭精算を求められる可能性があります。
  • 双方原因・合意解約では、一部返還や費用分担による総合清算が現実的です。
  • 合意内容は、結納金・指輪・結納返し・慰謝料・準備費用を含めて書面化しましょう。

結納金や婚約指輪の返還は、金額だけでなく、感情面や両家の関係も絡みやすい問題です。返還を求める場合も、返還請求を受けた場合も、まずは証拠と費目を整理し、必要に応じて弁護士に相談しながら、婚約破棄に関する請求全体を一度に解決することを目指しましょう。

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