発信者情報開示請求の要件

発信者情報開示請求の要件

発信者情報開示請求の要件

 

発信者情報開示請求はプロバイダ責任制限法4条1項に基づくものです。従って、同条に定める要件を満たす場合にのみ認められます。

 

(参考)プロバイダ責任制限法4条1項

第四条  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。

一  侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

二  当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

 

ここではプロバイダ責任制限法4条1項の条文に基づいて、発信者情報開示請求が認められるための要件について解説します。

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

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1.     特定電気通信による情報の流通

 

特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信をいいます(プロバイダ責任制限法2条1号)。

 

例えば、ホームページ、ブログや匿名掲示板等のインターネット上の投稿は不特定の人が内容を見ます。従って、インターネット上の投稿を色んな人が見れば、この要件を満たすことになります。

 

2.     権利が侵害されたことが明らかである

 

発信者情報開示請求は、インターネット上の投稿によって権利が侵害されただけでは足りず、権利が侵害されたことが明らかであることを満たす必要があります。

 

例えば、信用・名誉を毀損する誹謗中傷をインターネット上に投稿された場合は権利が侵害されたと言えます。しかし、権利が侵害されたことが明らかであると言うためには、当該誹謗中傷を正当化する事情がないことも必要です。

 

信用・名誉を毀損する事実であっても、それが真実であり、公共性・公益性があれば違法性がないとして正当化される余地があります。

従って、権利侵害が明らかであるためには、信用・名誉を毀損する事実が投稿されるだけでなく、投稿に公共性・公益性・真実性がないため違法であることまで必要になるのです。

 

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3.     発信者情報の開示を受けるべき正当な理由

 

発信者情報開示請求は、例えば誹謗中傷をした投稿者を脅してやろうなどの理由で行うことはできません。

プロバイダ責任制限法4条2項は、「発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。」と定めています。

 

従って、発信者情報開示請求を行うためには正当な理由が必要ですが、通常は民事上の損害賠償請求を行う又は刑事上の告訴を行う等の理由があります。

従って、適切な手段によって投稿者の責任追及を行うのであれば、この正当な理由は認められることになります。

 

4.     形式的要件①:発信者情報

 

発信者情報開示請求で開示を請求できるのは「発信者情報」です。発信者情報は総務省令で定められており、具体的にはプロバイダ責任制限法4条1項の発信者情報を定める省令において、以下のものとされています。

  • 氏名・名称
  • 住所
  • メールアドレス
  • IPアドレス・ポート番号
  • 携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
  • SIMカード識別番号
  • タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)

 

5.     形式的要件②:開示関係役務提供者

 

また、発信者情報開示請求の相手方は開示関係役務提供者に限定されます。開示関係役務提供者とは、プロバイダ、サイト運営者又はサーバー運営者等を言います。

 

この点に関して、電子掲示板への書き込み等のような場合には、発信者とコンテンツプロバイダの通信を媒介する経由プロバイダも開示関係役務提供者に該当するとされています(最高裁平成22年4月8日判決)。

当該判例は、経由プロバイダが発信者の住所・氏名等を把握しており、また、経由プロバイダ以外はこれらの情報を把握していないためもし経由プロバイダが開示関係者役務提供者に該当しないとプロバイダ責任制限法4条の趣旨が没却されることを理由としています。

従って、判例としては幅広く開示関係役務提供者を認めていると考えられます。

 

6.     手続的要件:開示に関する発信者の意見聴取

 

発信者情報開示請求をすると発信者に対する意見聴取が行われます。発信者情報開示請求の相手方はプロバイダやサイト運営者ですが、発信者のプライバシーや通信の秘密が不当に侵害されないように発信者の意見も聴く必要があるとされています。

 

もっとも、発信者の意見聴取は何か拘束力があるわけではありません。従って、発信者に意見聴取をしたところ反対された場合でも、発信者情報開示請求の実態的要件が満たされていれば情報を開示できます。

 

7.     まとめ

 

この記事では発信者情報開示請求の要件について解説しました。

 

とくにポイントになるのは、権利侵害がされたことが明らかであるという要件です。

発信者情報開示請求をするときは、単に誹謗中傷の投稿によって信用・名誉が毀損されたことだけでなく、当該投稿の公共性・公益性・真実性がないことを主張する必要があります。

 

なお、発信者情報開示請求の手続や成功させるためのポイントは別途記事をお読みください。

 

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