不当解雇について

不当解雇について

不当解雇について

 

能力不足や経営悪化等を理由として解雇を言い渡されるケースがあります。しかし、正当な解雇理由がなければ、会社は簡単に労働者を解雇することはできません。

 

例えば、社長とケンカをした直後に解雇を言い渡されたときは不当解雇に該当する可能性があります。

不当解雇になった場合は解雇無効を主張したり、慰謝料を請求したりすることができます。

 

この記事では不当解雇とは何かや不当解雇された場合の対応方法について解説します。

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

1.     不当解雇とは

 

不当解雇とは、解雇が認められる要件を満たしていないにもかかわらず、会社が労働者を一方的に解雇することです。

 

1.-(1)  社内規則があっても不当解雇になり得る

 

解雇の要件は法律で定められており、基本的に労働者に不利に変更することはできません。

しかし、ワンマン経営の中小企業等では会社内の独自ルールや社内規則に従って一方的に解雇されることがあります。

 

社内規則があるような場合でも、法律に定められた要件を満たさなければ不当解雇となります。

 

1.-(2)  不当解雇になる要件

 

解雇とは、会社が一方的に雇用契約を解除することです。

従って、有期契約の期間満了による終了は解雇ではありません。また、会社から退職勧奨を受けて、会社と労働者が退職することに合意したようなケースも解雇ではありません。

 

解雇は会社側が一方的に行うものであり、常に認められるわけではありません。

法律で認められた解雇の種類としては、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。これらの解雇の要件を満たしていなければ不当解雇となります。

 

とくに労働契約法16条によって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は解雇が無効になります。

従って、客観的・合理的な理由がないにもかかわらず解雇されたときは不当解雇になります。

 

1.-(3)  解雇の理由をチェックする

 

もし何も理由がないのに一方的に解雇を告げられたときは、理由がないこと自体が不当解雇となります。

従って、不当解雇かが問題になるケースの多くは、会社・経営者側から何かしらの解雇理由が説明されます。

 

会社・経営者の解雇理由を聞いて、それが普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のどれに基づく解雇なのかを判断します。

その上で、解雇の要件を満たしていない場合や、会社・経営者の解雇理由が虚偽である場合は不当解雇に当たると言えます。

 

なお、解雇の理由については、解雇通知書や解雇理由証明書を貰うことで確認できます。

とくに解雇理由証明書は、労働基準法22条1項で証明書の交付義務が定められているため、会社に請求すれば貰うことができます。

 

2.     不当解雇になる具体例

 

会社・経営者が考えている解雇理由が明らかになったことを前提として、どのような場合に不当解雇になり得るかの具体例について説明します。

 

なお、下記で説明するのは典型的な不当解雇の具体例であり、現実には会社・経営者側は巧妙に解雇理由があると装います。

もし、あなたの事案で不当解雇になるかを確認したい場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談するべきです。

 

3.-(1)  成績不良・能力不足が理由のとき

 

成績不良や能力不足を理由として解雇を伝えられたときは、普通解雇を前提としたものだと考えられます。

もっとも、成績不良・能力不足だからと言って解雇が直ちに正当化されるわけではありません。

 

例えば、成績不良・能力不足が従業員のミスによるものではない場合や、会社が従業員が能力を発揮できるよう十分な体制を整えなかったような場合には不当解雇になります。

具体例として、以下のような場合には不当解雇と判断される可能性があるでしょう。

  • 成績不良・能力不足が本当は自分のせいではなかった
  • 会社が十分に教育をしてくれなかったので結果が出せなかった
  • 入社直後にかかわらず能力がないと判断されてしまった
  • 労働組合の加入が真の解雇理由であった

 

不当解雇と判断された裁判例として以下のようなものがあります。

裁判例 概要
松筒自動車学校事件

(大阪地裁平成7年4月28日判決)

レジの金額に食い違いが生じたが全てが事務員のミスであると立証できなかったことで不当解雇と判断された
セガ・エンタープライズ事件

(東京地裁平成11年10月15日決定)

教育・指導が行われた形跡がないことを理由に不当解雇と判断された
ミリオン運輸事件

(大阪地裁平成8年7月31日判決)

積極的な組合活動をしていたことが解雇理由であるとして不当解雇と判断された
京新学園事件

(大阪地裁昭和60年12月25日決定)

勤務開始から1か月未満であり、解雇が性急すぐりとして不当解雇と判断された

 

3.-(2)  経営悪化による人員整理が理由のとき

 

経営悪化を理由として人員整理・リストラを理由として解雇されるケースも少なくありません。人員整理・リストラを理由とするときは、整理解雇を前提としたものだと考えられます。

 

整理解雇は会社側の事情によるものであり、以下の要件を満たさないと認められません。

  • 人員削減の必要性
  • 解雇を回避するために努力をしたか
  • 解雇の対象者が合理的・客観的に選ばれるか
  • 解雇について十分協議をしたか

 

従って、上記要件を満たさないときは不当解雇になります。具体的な不当解雇になる例としては以下のようなケースが挙げられます。

  • リストラされた一方で、新規の求人が行われている
  • 十分な協議がなされないまま突然リストラされた
  • 会社が解雇以外の経費削減手段を何も取っていない

 

3.-(3)  懲戒処分を受けたことが理由のとき

 

懲戒処分を受けたことを理由とする解雇は懲戒解雇と言います。しかし、些細な懲戒処分を受けたからと言って直ちに懲戒解雇が認められるわけではありません

 

懲戒解雇が認められるための要件としては以下の通りとされています。

  • 就業規則等に懲戒事由・懲戒処分の種類が定められていること
  • 懲戒事由が現実に存在すること
  • 懲戒処分の前に弁解の機会があったこと
  • 解雇の合理性・相当性があること

 

たしかに就業規則等で定める懲戒事由があるときは労働者側にも非があると言えます。しかし、軽微な懲戒事由に比べて、いきなり懲戒解雇をされてしまうのは社会通念に照らして相当ではありません。

 

そこで、懲戒事由があるとしても、以下のような例では不当解雇になる可能性があります。

  • 就業規則に書いていない懲戒事由で解雇された
  • 横領したとして解雇されたが自分が犯人ではない
  • セクハラで解雇されたが過去の処分に比べて重すぎる

 

3.     不当解雇された場合の対応方法

 

もし不当解雇をされた場合はどのような対応方法が取れるでしょうか?

 

3.-(1)  解雇される前:解雇を撤回して貰う

 

解雇される前に不当解雇であると分かったときは、会社と交渉して解雇を撤回して貰うことが考えられます。

もっとも、会社としても十分検討した上で解雇をしているため撤回に応じて貰える可能性は少ないでしょう。また、解雇を撤回されたとしても居心地が悪い思いをする可能性もあります。

 

3.-(2)  解雇無効+賃金請求を行う

 

不当解雇をされた後の手段として考えられるのが解雇無効を主張することです。

 

「解雇は無効であり働き続ける意思があるので職場復帰をしたい」と主張します。もっとも、狙いは職場復帰ではなく不当解雇後の賃金請求を行うことです。

不当解雇であると認められれば、本当は働くつもりだったのに会社が労働を不当に拒否したため働けなかったことになります。そのため、不当解雇と認められた期間については賃金が請求できるのです。

 

不当解雇と認められたときは請求できる金額も高額になる傾向があります。例えば、不当解雇と判断されたことで支払い命令がくだった裁判例として以下のようなものがあります。

裁判例 支払金額
日本ヒューレット・パッカード事件

(東京高裁平成23年1月26日判決)

約1600万円
ダイハツ工業事件

(大阪高裁昭和60年2月27日判決)

約1100万円
りそな銀行事件

(東京地裁平成18年1月31日判決)

約1400万円

 

3.-(3)  不当解雇に基づく慰謝料を請求する

 

悪質な不当解雇の事例では慰謝料請求が認められることもあります。もっとも、不当解雇の慰謝料はさほど高額ではなく、慰謝料相場としては50~100万円程度です。

従って、不当解雇を受けた場合には、解雇無効を主張するとともに不当解雇された期間の賃金請求を行うことがメインとなります。

 

例えば、不当解雇とセクハラによる慰謝料請求が問題となった事案では、会社と経営者にそれぞれ100万円の慰謝料請求が認められました(東京地裁平成9年2月28日判決)。

 

4.     まとめ:不当解雇を受けたら弁護士に相談を

 

この記事では、納得がいかない解雇を言い渡されたときの考え方について解説しました。

 

会社が一方的に解雇をするためには解雇の理由が必要です。会社は解雇理由証明書を交付する義務があるため、解雇されたときはまず解雇理由証明書を請求しましょう。

 

解雇理由証明書によって解雇理由が分かったら、解雇理由毎に正当な解雇として認められるかを判断します。

解雇理由が法律上認められるものでないときや、真の解雇理由が別にあるとき等は不当解雇になります。

 

不当解雇と判断されるのであれば、基本的には解雇無効を主張するとともに解雇期間の賃金を請求します。不当解雇と認められれば1000万円を超える金額を請求できることも少なくありません。

 

あなたの事案で不当解雇になるかや、不当解雇になるとしてどのようにお金を請求するべきかは是非弁護士にご相談ください。