手付解除は「理由を問わず解除できる」便利な制度ですが、いつでも使えるわけではありません。手付解除がいつまで可能かは、民法の原則(相手方が履行に着手するまで)と、契約書の手付解除期日、そして実際の動きで決まります。
この記事では、買主側を中心に、手付解除の期限、できないケース、手付金の扱い、そして争点になりやすい「履行の着手」を裁判例の考え方も踏まえて整理します。
- 手付解除の期限(履行の着手まで/手付解除期日まで)が分かる
- 「履行の着手」に当たりやすい行為・当たりにくい行為が分かる
- 手付金が戻る/戻らないの整理ができる
- トラブルを増やさない解除通知のポイントが分かる
まずは「手付」と手付解除の基本から確認します。
手付解除とは(解約手付の基本)
売買契約で手付金を交付している場合、特段の合意がなければ、手付は解約手付として扱われるのが一般的です。解約手付では、買主は手付放棄、売主は手付倍返しにより、一定の期限まで契約を解除できます。
手付解除はいつまで?基本は「相手方が履行に着手するまで」
民法上の原則は、当事者の一方が契約の履行に着手するまで手付解除ができる、という整理です。実務では、次の2つのどちらが先に来るかを確認します。
- 契約書で手付解除期日が定められている:その期日まで
- 期日の定めがない(または抽象的):相手方が履行に着手するまで
「期日があるのに過ぎた」「履行の着手が認められる」場合、手付解除はできず、解除するなら違約解除(違約金・損害賠償が問題)になりやすい点に注意が必要です。違約金の整理は不動産売買の解約違約金も参考になります。
争点になりやすい「履行の着手」とは
履行の着手は、単なる準備ではなく、客観的に外部から認識できる形で履行行為に入ったか(または履行の提供に不可欠な前提行為に入ったか)が問題になります。
履行の着手に当たりやすい例
典型的には、残代金の提供・支払い、引渡しの提供など「給付そのもの」に近い行為が中心です。裁判例でも、契約の履行に不可欠な法的手続に入ったことが履行の着手と評価された例があります(例:農地法の許可申請書を共同で提出した事案で、最高裁昭和43年6月21日判決)。
履行の着手に当たりにくい(争われやすい)例
一方で、測量、ローン申込み、書類の取り寄せなどは、事案によっては「準備」にとどまり履行の着手に当たらないと評価されることがあります。たとえば、履行期よりかなり前の測量や代金提供が履行の着手に当たらないとされた最高裁平成5年3月16日判決もあります。
どの行為が「着手」になるかは契約の内容・履行期・当事者の行動によって揺れます。迷う場合は、解除通知を急ぐ前に、証拠を整理して慎重に判断することが重要です。
手付金はどうなる?(買主:放棄/売主:倍返しが基本)
手付解除が認められる場合、買主側からの解除は「手付放棄」、売主側からの解除は「手付倍返し」が原則です。売主が解除する場合、倍返しの提供方法(現実の提供が必要か等)が争点になることもあります。
手付解除できない・注意が必要なケース
次のケースでは、手付解除が使えない(または争いになりやすい)ため注意が必要です。
- 相手方が履行に着手している(またはその可能性が高い)
- 手付解除期日が経過している
- 手付が解約手付ではなく、別の性質(違約手付等)として合意されている
- 解除の意思表示が曖昧で、相手方が「解除ではない」と争う余地がある
手付解除の手続き:通知は書面で整理する
手付解除は、期限との勝負です。電話だけで済ませず、書面(メール含む)で解除の意思表示を残すことが重要です。争いが見込まれる場合は、内容証明郵便も選択肢になります。
解除通知全般のポイントは契約解除通知書(内容証明)の書き方で整理しています(クーリングオフは別の通知書になります)。
まとめ
- 手付解除は原則「相手方が履行に着手するまで」(または手付解除期日まで)
- 履行の着手は準備行為では足りず、事案により判断が割れる
- 期限を過ぎると違約解除になり、違約金・損害賠償が問題になりやすい
- 解除の意思表示は書面で残し、必要なら内容証明も検討する





