遺産分割が揉めやすい事例としては以下のようなケースがあります。
- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
CASE1 相続人の一部が結婚資金を貰っていて不公平だ
(事例)
Hさん(30代後半、独身女性)は、早くにお母さんを亡くしてしまい、お父さんと同居していました。しかし、お父さんが先日急逝されたため、思いがけず相続に直面することになりました。
Hさんには、妹さんと弟さんが居たため、相続人は3人だったのですが相続財産の分配方法を巡って揉めてしまいました。
お父さんの相続財産を確認したところ、不動産以外に預貯金が500万円程度あり、不動産については売却して代金を分配することで話し合いがまとまったのですが、預貯金の分配が問題となりました。
というのも、預貯金は数年前までは900万円程度あったのですが、妹さんが数年前に結婚したときにお父さんが持参金や新居引越しのための費用として400万円を妹さんのために支出していたのです。
Hさんとしては、今後自分が結婚する時にお父さんが生きていれば、妹さんと同様に結婚資金を貰えただろうということと、妹さんが既に400万円も結婚資金を貰っておきながら500万円の預貯金を3等分することになるのでは不公平だと感じています。
(解決方法)
特別受益(民法903条)という制度があるため、妹さんが貰った結婚資金は相続財産の前渡しと考えて遺産分割を行うことができます。
特別受益とは、相続人の1人が、被相続人から結婚資金や生活資金の生前贈与や遺贈を受けている場合の利益をいいます。予め特定の相続人が利益を受けているときは、当該利益を相続財産に加算して相続分を計算した上で、当該利益を控除した金額が相続分となります。
本件では、現にある預貯金500万円+妹さんが貰った結婚資金400万円の合計900万円が相続財産とみなし、Hさん、妹さん、弟さんが各300万円ずつ相続できると考えた上で、妹さんは既に400万円を貰っているのでHさん、弟さんが各300万円ずつ相続することになります。
なお、預貯金は500万円しかないため、Hさんと弟さんが各300万円ずつ相続すると不足しますが、当該不足分を妹さんが返す必要はありません。但し、本件では預貯金以外に不動産もあるため、不動産の売却金額を分配する時に不足している100万円を妹さんが既に貰ったと考えて計算することになります。
CASE2 両親と同居していた相続人が財産を教えてくれない
(事例)
Tさん(60代、男性)は、お兄さんと相続について揉めています。先日、お母さんが亡くなったのですが、Tさんは進学をきっかけに家を出てしまい、お兄さんがお母さんと実家で同居していました。
お兄さんは結婚していたのですが、お兄さんの奥さんはお母さんと渋々同居していたため、口出しをされたくないということでTさんがお母さんに会いにくるのを歓迎していませんでした。そのため、Tさんは最近はお母さん・お兄さんとは疎遠な関係になり、葬式のために久しぶりに実家に帰るような有様でした。
そのため、Tさんとしてはお母さんにどのような相続財産があるのかを全く把握していません。お兄さん夫婦に聞いても、お母さんの面倒は自分達が負担していたぐらいであり、全く財産は残っていないと答えるばかりです。
しかし、先に亡くなったお父さんは2000万円程度の預貯金があったはずであり実家に住んで慎ましやかに生活していたお母さんが預貯金を使いきるはずがないですし、また、お父さんが行っていた株取引による株式も保有していたはずです。
Tさんとしては、本当は相続財産があったのではないかという疑いが晴れません。
(解決方法)
相続財産の調査については以下のような方法で行います。預貯金・株式以外にも色々な相続財産がありますので参考にして下さい。
①預貯金
預貯金は通帳をみればわかりますが、通帳がない場合でも取引銀行が分かっていれば窓口で残高を教えてくれることがあります。このときは被相続人との関係を示す戸籍謄本や本人確認のための身分証明書の提出を求められることがありますので予め銀行にご確認下さい。
預貯金の調査は弁護士会照会といった弁護士による特別の調査で行う場合もあります。
②株式
株式の調査については、金融機関や証券会社に対して評価証明書を貰う方法で行います。例えば、被相続人名義で証券会社等から案内が来ていなかったかを思い出して調べます。
③不動産
不動産に関しては不動産を管轄する法務局で不動産登記簿謄本を取得します。
また、弁護士はインターネットによって不動産登記を取得することができますので、ご相談いただければ取得いたします。
④生命保険金
被相続人に生命保険がかけられている場合もありますが、死亡保険金の受取人が他の相続人になっている場合はどのように考えれば良いでしょうか。この場合は、例外的な事情がない限り、残念ながら相続財産にはならないと考えられます。
CASE3 両親と同居していた相続人が両親の預貯金を使い込んだ
Kさん(60代、女性)は、お兄さん(長男)、Kさん(長女)、妹さん(次女)の3人兄弟でしたが、ここ数年の間にお兄さんとお母さんを立て続けに亡くしてしまいました。
お兄さんには奥さん(義姉)と子ども(甥)が居たため、お母さんの相続についてKさん・妹さんと義姉・甥との間で揉めています。
お母さんは、お兄さん、義姉、姉と田舎で長年同居していましたが、亡くなる2~3年前に老人ホームに入所していました。Kさん、妹さんは東京に嫁いでいましたが、機会がある毎にお母さんのお見舞いに訪れたり、旅行に連れていったりしていました。
お兄さんがお母さんより先に死亡したため、お母さんの相続財産の分配について義姉と話し合っていたところ、義姉が管理していたお母さんの預貯金残高がほとんど0円になっていたため驚いてしまいました。
通帳を見ると、数年前までは1000万円近くの預金があったのですが、お母さんが老人ホームに入るようになってから50万円単位の預金引出しがなされるようになっていました。
お母さんは月10万円程度の年金を貰っており、老人ホームに入所後は旅行等にも行っていないはずなのに多額の現金を必要としたはずがありません。義姉によれば、子ども(甥)に対する入学祝いやお小遣いで貰ったこともあるとのことですが、それにしても金額が大きすぎるため、Kさんとしては義姉がお母さんの預貯金を使い込んだとしか思えません。
(解決方法)
相続・遺産分割問題において「預貯金の使い込み」は頻繁にもめるケースです。相続人の一部が被相続人と同居していたケースにおいて、同居していた相続人が遺産分割に協力しないときは預貯金の使い込みがされているケースは少なくありません。
このような場合には、遺産確認の訴えや不当利得返還請求訴訟を提起することが考えられます。いずれも本当は使い込みがなされた預貯金は被相続人のものであり、遺産(相続財産)に含まれるはずであることを前提とした訴訟手続きです。
預貯金の使い込みがあるケースでは、相手方は様々な事情を挙げて預貯金の使い込みを否定するでしょう。しかし、被相続人の認知能力・生活状況、高額な預貯金の引出しが必要な事情の有無、相続人が預貯金を自由に引き出せたことなどから預貯金の使い込みを立証します。
相続が発生した直後では遺産(相続財産)の預貯金がほとんどないケースでも、過去の取引履歴を確認して不審な入出金が確認されたときは弁護士にご相談ください。