相続対策(生命保険の活用)

相続対策(生命保険の活用)

相続税対策として生命保険を活用する方法が考えられます。

生命保険を用いる場合は、生命保険控除のメリットを受けられる上、暦年贈与と組み合わせることで非常に有効な相続税対策となります。

 

なお、生命保険は健康なときにしか加入できませんので、早めに対策を検討することが重要となります。相続対策を考えられた場合は早期にご相談いただければと存じます。

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

相続と生命保険

 

相続が発生した場合、相続税の基礎控除額を超えた場合は相続税が課されますが、相続税の申告・納税は10か月以内に行わなければなりません。

とくに東京都内においては、約25%の相続に相続税が課されると言われていますが、その一因は地価が高いため相続財産に含まれる土地・建物が基礎控除額を上回るためと考えられます。

 

相続税は現金による一括払いが原則であるため、相続財産が土地・建物のみであるような場合には、土地・建物を売却して現金を作らなければ相続税を支払うことができません。その土地・建物に相続人が住んでいるような場合は自宅から立ち退くという事態になってしまうのです。

 

そこで、相続税を支払うための現金を確保するという意味の相続対策として生命保険が活用が考えられます。生命保険は、被相続人の死亡によって、相続人が多額の保険金を取得するため、その保険金で相続税を払うことができます。

 

生命保険金の取扱い

 

被相続人が死亡したため、保険金受取人が生命保険金を受け取った場合の保険金の取扱いについては、保険料の支払者、生命保険金受取人、被保険者が誰であるかによって所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税対象となるかが異なります(国税庁HP:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm)。

 

①所得税が課税される場合

保険料の支払者と保険金受取人が同一の場合には生命保険金が一時所得又は雑所得として所得税が課されます。保険金を一時金で受領したときは一時所得になります。生命保険金を年金で受領したときは、公的年金等以外の雑所得になります。

 

 

②相続税が課税される場合

死亡した被保険者と保険料の支払者が同一の場合です。例えば、ご主人が自分を対象に生命保険に加入して、ご主人が保険料を支払っていたような場合です。

この場合、受取人が相続人であるときは(例えば、子どもや妻が受取人の場合)、相続により取得したものとみなされ、相続人以外の者が受取人であるときは遺贈により取得したものと税法上はみなされます(民法上は生命保険金は相続財産の範囲外とされているため取扱いが異なることに注意が必要です。)。

 

③ 贈与税が課税される場合

保険料の支払者、被保険者、生命保険金の受取人がすべて異なる場合には贈与税が課されます。

 

生命保険金の非課税限度額の利用

 

生命保険金が相続税が課税対象となる場合は、生命保険金の形で財産を取得することによって相続税の非課税限度額を利用することができます。

すなわち、生命保険金は、遺族の生活保障を目的とするため、相続人が保険金を受け取る場合に限り、500万円×法定相続人の数が非課税金額とされています。なお、非課税金額の計算については、相続を放棄した者も法定相続人の数としてカウントされます。

 

生前贈与と生命保険の活用

 

相続税対策の方法として生前贈与がありますが、現預金を生前贈与する方法が一般的です。しかし、生前贈与に生命保険を活用することで様々なメリットがあります。

 

例えば、以下のような生命保険に加入した上で、子どもに対して現金を贈与し、子どもがその現金で生命保険料を支払います。

・保険契約者・受取人(一時払い):子ども

・被保険者:親

 

子どもや孫に現金や預貯金を贈与すると、無駄使いをするのではないかや、金銭感覚が狂うのではないかという心配があります。しかし、生前贈与したお金を生命保険の形に

することによって本当に必要なときまで簡単にお金を使うことができなくなります。

 

また、生前贈与によって、相続財産が減りますので相続税の節税になります。贈与金額を年間110万円以下に抑えることができれば、贈与税もかかりません。さらに、生前贈与を行う場合の注意点として指摘した贈与したお金を子どもが管理する点についても子どもが契約者である生命保険金を支払っているので贈与を否定されるリスクを減らすことにもなります。

 

子どもが受け取った生命保険金は、子どもが保険料支払者・受取人であるため、相続税の対象ではなく、子どもが生命保険金を受け取った時に所得税の対象(一時所得)となります。

一時所得は、「(生命保険金額-保険料の総額-50万円)×1/2」によって計算されます。すなわち、生命保険金額が支払った保険料の総額を上回る部分から50万円を差し引いた金額の半分に対して所得税が課税されます。

一時所得は、総合課税として他の所得と合算して所得税を計算しますが、利益の半分にしか課税されないため実質的な税率は低額となります(所得税が最高税率でも25%程度)。従って、相続税の税率が30%を超えることが見込まれるときは、非常に有効な節税策となります。

 

相続税対策に有効な生命保険とは

 

生命保険には大きく分けて終身保険、養老保険、定期保険の3つがありますが、それぞれの性質を踏まえて活用することが重要となります。

  • 終身保険
  • 養老保険
  • 定期保険

 

①終身保険

終身保険は、保証が一生続くため満期がなく、解約をした場合は解約返戻金が戻ってくる生命保険です。

 

②養老保険

養老保険は、保障される期間は限定されますが、満期がくればお金が戻ってくる生命保険です。

 

③定期保険

定期保険は、保障される期間は限定されており、満期になってもお金は戻ってこない掛け捨ての生命保険です。

 

生命保険活用の理由として、相続税の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を使いたいのであれば終身保険に加入することがおすすめです。終身保険では満期がないため確実に保険金を受け取ることができます。

 

生命保険金の受取人について

 

相続税対策のために生命保険を活用する場合は相続人の誰を生命保険金受取人にするかを検討する必要があります。

 

例えば、配偶者は相続税の軽減措置があるため、取得する相続財産が1億6000万円以下の場合又は法定相続分のみを相続する場合は相続税が課されません。従って、原則として相続税が課されない配偶者を受取人するよりは、子どもを生命保険金の受取人にする方が有効な節税対策となります。