遺言執行者について

遺言執行者について

遺言執行者は、相続人全員の代理人として相続財産を管理して、相続財産の分配や登記名義の変更等の手続を行うことにより、遺言書の内容を具体的に実現します。

 

遺言執行者は通常遺言書の中で指定されます。多くの場合は遺言書作成を行った弁護士が遺言執行者となります。そうすることで、単に相続財産を分配するだけでなく、遺言書を作成された遺言者の思いを相続人に対して適宜説明することによって円満な相続を実現することができます。

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

(1)     遺言執行者の任務

 

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。

遺言執行者がいる場合は、各相続人は、遺言の対象となった相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるような行為は一切禁止されます。従って、相続人の誰かが遺言の内容に反した行動を取ろうと思っても、そのような行為は無効となるため、遺言執行者によって確実に遺言が実現されます。

 

遺言執行者は、相続開始があった場合には具体的には次の業務を行います。

①相続人・受遺者に対して遺言執行者に就任した旨の通知を出す。

②遺言書の写しの交付

③相続財産目録の作成・交付

④受遺者ニ対して、遺贈を行うための打ち合わせをする

⑤遺言による認知があった場合、市町村役場に戸籍の届出をする。

⑤相続人を廃除する遺言があった場合、家庭裁判所に廃除の申立てをする。

⑥遺言に従って相続財産を分配する

⑦相続財産に不動産がある場合は、相続登記の手続をする。

 

(2)     遺言執行者に誰がなるか・遺言執行者の費用

 

遺言執行者は、一般的に銀行や弁護士が就任することが多いです。遺言書を作成する場合に弁護士に遺言書作成を依頼して、その者が遺言執行者になります。信託銀行や司法書士も遺言書作成業務を行っていますが、メリット・デメリットは以下のとおりです。

 

①信託銀行について

 

信託銀行が遺言執行者に就任した場合には、100万円程度を下限として相続財産の1~3%程度が遺言執行者の報酬となります。

 

信託銀行は、大企業であるため信頼感がありますが、他方で画一的な業務しか行えないというデメリットがあります。信託銀行の従業員は、必ずしも法律の専門家ではありませんので、遺言書作成もフォーマットに従った定型的なものとなりますし、マニュアル外のトラブルに適切に対応できるかはやや疑問です。

また、業務範囲以外の柔軟な対応を希望される場合、オーダーメイドのサービスを受けたい場合には対応して貰うのが難しいと言えます。

 

②司法書士

 

司法書士が遺言執行者に就任した場合は、弁護士と同程度の報酬が必要となります。一般的に、弁護士よりも司法書士の方が安いイメージを持たれる方が多いですが、弁護士増員に伴って概ね報酬額の差は無くなりつつあります。

 

司法書士は、不動産登記の移転手続については専門家ですが、実は必ずしも法律全体の専門家とは言えません。あくまでも、司法書士の本来的業務は登記申請です。また、司法書士は、原則として、紛争性のある業務を取り扱うことができず、原則として訴訟等も行えませんので、遺言実現に関するトラブル対応能力にもやや疑問があります。

なお、弁護士は、司法書士の業務を取り扱うこともできます。

 

③弁護士

 

弁護士が遺言執行者に就任した場合は、相続財産の1~3%程度が遺言執行者の報酬となります。

弁護士は、法律の専門家でありますし、遺言実現に関してトラブルが生じた場合にも適切な対応が可能です。信託銀行や司法書士との大きな違いは、弁護士は定型的な案件を扱うことがなく、常にイレギュラーな事態(紛争)を取り扱っているため、柔軟な対応を行うことには長けています。

 

遺言執行者としての業務についても、画一的・マニュアル的な対応ではなく、事案に応じた柔軟な対応が可能ですし、交渉案件で得たテクニックで相続人を説得することによって円満な遺言実現を期待できます。
基本的には遺言執行者には弁護士を選任することをおすすめしています。