不当解雇で慰謝料請求できる場合と慰謝料相場について

不当解雇で慰謝料請求できる場合と慰謝料相場について

不当解雇で慰謝料請求できる場合と慰謝料相場について

 

会社から正当な理由がないのに一方的に雇用契約を解雇されたときは不当解雇として慰謝料を請求できないか疑問に思われるかもしれません。

 

この記事では不当解雇で慰謝料を請求できる場合とその相場について説明します。

また、不当解雇が生じるようなケースでは、慰謝料以外も会社に対して請求できる可能性が高いです。

不当解雇にあったときは、どのような請求ができるかを解説します。

執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

1.     不当解雇で慰謝料が請求できる場合

 

1.-(1)  慰謝料=不法行為に基づく損害賠償請求

 

不当解雇で慰謝料を請求できるのは、不当解雇が不法行為の要件を満たす場合です。

 

一口に不当解雇と言っても色々なケースがあります。

不当解雇に該当すれば解雇の法的理由がないため解雇が無効になります。しかし、会社側にも「解雇の自由」が保障されていることから無効な解雇が必ずしも直ちに不法行為になるわけではありません。

 

そのため、不当解雇は、著しく社会的相当性に欠ける場合に初めて不法行為に該当すると考えられています。

つまり、不当解雇が悪質なケースであれば、不法行為の要件を満たして慰謝料を請求できるのです。

 

1.-(2)  不当解雇が不法行為に該当するケース

 

不法行為とは、故意・過失によって権利・利益を侵害したときに損害賠償が請求できるというものです(民法709条)。

もっとも、これだけだとどのような場合に不当解雇が不法行為に該当するかは分かりません。そこで具体的な事例に基づいて不当解雇が不法行為に該当すると判断されたケースを解説します。

 

まず、不当解雇によって「著しい生活上の不利益を被った」と主張されて、損害賠償請求が認められた事例があります(東京地裁平成23年11月25日判決)。

本件事案では、解雇を回避する方法・手段を検討せずに行った解雇が性急・拙速であると判断され、著しく社会的相当性に欠ける行為であり不法行為に該当すると判断されています。

 

また、不当解雇とセクハラを理由として、慰謝料請求が認められた事例もあります(東京地裁平成9年2月28日判決)。

本件では、セクハラ行為自体が不法行為とされただけでなく、不当解雇で勤務を継続できなくなったことも不法行為を構成すると判断されています。

判決の理由からは、不当解雇自体が不法行為に該当するとも考えられますが、あくまで不当解雇とセクハラがなされた具体的事情に照らして不法行為に該当すると考えるのが自然でしょう。

 

2.     不当解雇の慰謝料相場

 

2.-(1)  慰謝料相場は50万円から100万円程度

 

もっとも、不当解雇が不法行為に該当するため慰謝料請求が認められる場合でも、高額な慰謝料が認められるわけではありません。

 

不当解雇に基づく慰謝料相場としては50万円から100万円程度と考えられます。

例えば、前述の東京地裁平成9年2月28日判決は、不当解雇自体の慰謝料としては、1か月分の賃金が27万円であること等を指摘して慰謝料50万円が相当であると判断しました。

また、不当解雇とセクハラを合わせた慰謝料としても合計100万円しか認められていません。

 

このように不当解雇で慰謝料請求ができる場合でも、必ずしも高額な慰謝料が認められるわけではないことに注意が必要です。

 

2.-(2)  こんなに低い金額では不当解雇に納得できない?

 

不当解雇の慰謝料について解説しましたが、単に不当解雇だけでは慰謝料請求が認められず、さらに慰謝料も高額な金額ではないことに納得がいかないと思われるかもしれません。

 

実は、不当解雇で慰謝料請求するのは一般的ではないのです。不当解雇では慰謝料以外に様々な請求をすることができ、こちらの方が高額な請求になります。

 

3.     不当解雇の争い方:慰謝料以外で請求できるもの

 

3.-(1)  そもそも不当解雇の効果は?

 

不当解雇は労働契約法16条に反して無効な解雇です。つまり、不当解雇の本来の効果は解雇が無効になることです。

従って、不当解雇を主張するときは解雇がなかったことを前提として、正しい手続を行うように求めるのが一般的な請求です。具体的にどのような請求をするべきかを以下の通り解説します。

 

なお、どのような場合に不当解雇になるのは以下の記事をお読みください。

(参考)不当解雇とは

 

3.-(2)  解雇予告手当を請求できる

 

解雇を行うためには会社側は30日以上前に告知する必要があるのが原則です。

もし、予告期間を設けずに解雇をされたときは、会社側は30分日以上の平均賃金を支払う義務があります(労働基準法20条)。

 

不当解雇をされたときは解雇予告がされずに突然会社に来なくて良いと言われるケースがあります。このような場合には解雇予告手当を請求できます。

 

3.-(3)  解雇後の賃金が請求できる

 

不当解雇の効果は解雇が無効になることです。つまり、不当解雇が認められれば、法律上は、あなたと会社の雇用関係が続いていると判断されます。

従って、解雇をされていても不当解雇であれば、解雇後の賃金を請求することができます。

 

もっとも、解雇後は出社しておらず勤務をしていません。それでも賃金が請求できるか疑問に思われるかもしれません。

しかし、勤務ができなかったのは会社が解雇を主張して働かせなかったからです。

会社側の都合により、あなたが出社を拒否されたにすぎないわけなので、現実に勤務していなくても賃金が請求できるのです。

 

解雇後の賃金としてどの程度が請求できるかは、あなたの給与や不当解雇が確定するまでの期間によります。

例えば、不当解雇が長年裁判で争われて、解雇から決着まで2年かかったとすれば理論的には最高では2年間の年収相当分として数百万円から一千万円を超える請求できる可能性があります。

 

不当解雇の慰謝料相場が50万円~100万円程度であることを考えると、一般的には解雇後の賃金請求をメインに行う方が得なケースが多いでしょう。

 

4.     まとめ:不当解雇の慰謝料相場と対応方法

 

この記事では不当解雇をされたときに慰謝料を請求できる場合と慰謝料相場について解説しました。

不当解雇で慰謝料を請求されるケースは限られている上に、慰謝料としては50~100万円程度しか認められません。

 

実は、不当解雇をされた場合は慰謝料を請求するより、解雇後の賃金を請求することが一般的です。

不当解雇と認められれば数百万円から一千万円程度の慰謝料が認められることもあります。

 

どのような場合が不当解雇になるかは下記記事もご覧ください。

(参考)不当解雇とは