ネット上の誹謗中傷や名誉毀損の投稿は、放置すると検索結果に残り続けたり、拡散で被害が広がったりします。一方で、サイト運営者へ削除依頼をしても「対応してもらえない」「返事がない」「ガイドライン上は削除対象と言われない」といった事情で、削除が進まないこともあります。
そこで検討されるのが、裁判所の手続を使って投稿の削除を求める削除仮処分(投稿削除の仮処分)です。通常訴訟よりも早い段階で結論が出る可能性があり、緊急性が高いケースで有効な選択肢になります。
- 削除仮処分とは何か(通常の削除依頼・訴訟との違い)
- 削除仮処分が向いているケース/向いていないケース
- 認められるためのポイント(権利侵害と緊急性の考え方)
- 手続の流れ・期間の目安・費用(担保金を含む)
- 発信者情報開示(投稿者特定)との関係と、弁護士に相談するメリット
削除仮処分とは
削除仮処分とは、裁判所に申し立てを行い、特定の投稿について「仮に削除すること」を命じてもらう手続です。ネット上の投稿は拡散性が高く、削除が遅れるほど回復が困難になることがあるため、最終的な裁判(本訴)を待たずに暫定的な救済を得る目的で用いられます。
通常の削除依頼(任意対応)との違い
削除依頼(通報フォーム、ガイドライン申請、運営者への連絡など)は、スピーディーで費用も抑えやすい反面、運営者が削除に応じなければ先へ進みにくいという限界があります。これに対し削除仮処分は、権利侵害が認められることを裁判所に示し、裁判所の判断を前提に削除を実現する手続です。
通常訴訟(本訴)との違い
通常訴訟でも投稿の差止め(削除)を求めることは可能ですが、結論が出るまで時間を要することがあります。削除仮処分は、緊急性の高い場面で先に投稿を消す必要があるときに、より早期の解決を目指す手続として位置付けられます。
削除仮処分が検討される主なケース
削除仮処分は万能ではありませんが、次のようなケースでは選択肢になりやすいです。
- 削除依頼をしても運営者が応じない/回答がない(国内外のサービスを含む)
- 拡散が進行中で、早期に沈静化させたい(引用・リポスト・まとめ転載が増えている等)
- 企業や店舗の信用に直結する(口コミサイト・検索結果に露出し続け、予約や取引に影響が出ている等)
- プライバシー情報の露出がある(住所・勤務先・顔写真などが投稿されている等)
ただし、投稿の違法性(権利侵害)がはっきりしない場合や、緊急性が乏しい場合は、仮処分が認められにくくなることがあります。また、投稿者特定(発信者情報開示)を優先したいケースでは、削除のタイミングや証拠の残し方を慎重に検討する必要があります。
削除仮処分が認められるためのポイント
削除仮処分では、ざっくり言うと「権利侵害があること」と「今すぐ消す必要があること」を裁判所に示す必要があります。提出する資料の質と、主張の組み立てが重要です。
- 権利侵害が認められる見込み(疎明)があること:名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、信用毀損、業務妨害など、どの権利がどう侵害されているかを具体的に整理します。
- 保全の必要性(緊急性)があること:拡散状況、検索露出、業務・生活への影響など、削除が遅れるほど回復が難しい事情を示します。
- 対象投稿を正確に特定できること:URL、投稿日時、スレッド番号、投稿ID等を押さえ、どの投稿を消すのかが明確な状態にします。
- 相手方(削除を求める先)の選定が適切であること:多くの場合、投稿者本人ではなく、投稿を管理するサイト運営者・プラットフォーム運営者に対して削除を求めます。
なお、名誉毀損に当たるかどうかは、表現の内容だけでなく、投稿の文脈、真実性・相当性、公益性などが問題になることがあります。「腹が立つ投稿=必ず削除できる」という関係ではないため、見込み判断は専門的になりがちです。
削除仮処分の流れ
実際の進め方はサービスや事案で異なりますが、一般的には次のような流れで進みます。
- 証拠を確保する:投稿が消える前に、スクリーンショット(投稿内容・投稿者情報・日時・URLが分かる形)やPDF保存などで記録を残します。拡散状況(引用投稿、検索結果、関連スレッド等)も併せて保存すると、緊急性の説明に役立つことがあります。
- 弁護士へ相談し、方針を決める:削除を優先するのか、投稿者特定(発信者情報開示)や損害賠償も視野に入れるのかで、動き方が変わります。特定を目指す場合は、ログが消える前の手当(ログ保全等)も検討します。
- 申立書の作成・裁判所への申立て:侵害されている権利、問題となる投稿、削除が必要な理由(保全の必要性)を整理し、証拠とともに提出します。
- 審尋(裁判所の確認):裁判所が申立内容を確認し、必要に応じて当事者の説明を求めます。ここでの説明の仕方・資料の出し方が結論に影響することがあります。
- 担保金の供託:仮処分が認められる場合、一般に担保金の供託が求められます(相手方に損害が生じた場合に備える趣旨)。金額は事案により異なります。
- 仮処分命令の発令→削除の実行:命令が出た後、運営者側で削除対応が行われます。サービスによっては技術的な反映に時間がかかることもあります。
投稿者特定(発信者情報開示)とどう関係する?
削除仮処分は「投稿を消す」ための手続であり、原則として投稿者を特定する手続ではありません。投稿者の特定や損害賠償まで見据える場合は、発信者情報開示請求等の手続を別途検討します。
発信者情報開示の概要は、下記ページでも解説しています。
なお、削除を先行させると、後から「どの投稿か特定できない」「ログと結び付けられない」といった問題が出ることがあります。削除・開示・賠償の優先順位は、被害の性質(拡散の速さ、生活・業務への影響、再投稿の可能性など)によって最適解が変わります。
期間の目安:どれくらいで削除される?
削除仮処分は通常訴訟より早く結論が出る可能性がありますが、どれくらいで削除されるかは一律ではありません。投稿の内容、証拠の揃い方、裁判所の運用、相手方の対応状況などで変動します。
一般論としては、準備が整っていて争点が比較的明確な場合、早期に判断が示されることがあります。一方、権利侵害の判断が微妙なケースや、対象投稿の特定が難しいケース、相手方が争うケースでは、一定の時間を要することもあります。「いつまでに消したいか」(採用・入学・新商品リリース等の期限があるか)も含め、早い段階で見通しを立てることが重要です。
費用の目安:何にお金がかかる?
削除仮処分の費用は、主に次の要素で構成されます。個別事情で大きく変わり得るため、ここでは「内訳の考え方」を整理します。
- 裁判所費用(収入印紙・郵券など):申立てに必要な実費です。一般に弁護士費用に比べると小さいことが多いですが、提出通数や相手方数などで変動します。
- 担保金:仮処分が認められる場合に求められることがある供託金です。削除が不当だった場合などに備える趣旨で、金額は事案・影響範囲により幅があります。手続終了後に返還されることがありますが、当面は資金を用意する必要があります。
- 弁護士費用:着手金・報酬金の体系や、対応範囲(仮処分のみか、削除交渉・開示・賠償まで含むか)によって変わります。事前に見積りの内訳と、追加費用が発生し得る条件を確認しておくと安心です。
また、海外事業者が関与するケースや、複数サイトに転載が広がっているケースでは、翻訳・送達・追加申立てなどで負担が増えることがあります。費用対効果の観点から「まずは任意削除を尽くす」「開示を優先する」「本訴での差止めを検討する」など、複数案を比較することが大切です。
弁護士に依頼するメリット
削除仮処分は、単に申立書を出すだけではなく、「削除の根拠(権利侵害)」と「急いで消す必要性」を筋道立てて示す必要があります。弁護士に相談・依頼するメリットは次のとおりです。
- 見込み判断と手段選択ができる:削除仮処分が適切か、削除依頼や通常訴訟、発信者情報開示とどう組み合わせるべきかを整理できます。
- 証拠の不足・弱点を補強できる:URLの特定、スクリーンショットの撮り方、拡散状況の示し方など、裁判所へ通る形に整えます。
- 対応スピードを上げやすい:提出書面・証拠の準備、裁判所対応、相手方との連絡を含め、実務を進めやすくなります。
特に、企業・店舗の被害で「検索結果に残ること」自体が損失につながる場合は、法的手段の選択を誤らないことが重要です。ご不安がある場合は、早めにご相談ください。
削除仮処分の前に押さえたい注意点
削除仮処分を急ぐ場面ほど、次の注意点を見落としがちです。
- 先に証拠を確保する:削除された後では、投稿内容や文脈を示しづらくなることがあります。まずは保存が先です。
- 「削除したい」だけでなく目的を決める:沈静化が最優先なのか、投稿者特定や賠償まで見据えるのかで、取るべき手続が変わります。
- 反撃投稿・晒し返しは避ける:こちら側が新たな権利侵害を指摘されると、紛争が複雑化します。
削除や投稿者特定を含むネットトラブル全般については、下記ページでもまとめています。
よくある質問
削除仮処分を申し立てれば、必ず削除されますか?
必ず認められるとは限りません。権利侵害の明確さや緊急性、対象投稿の特定状況などによって結論が左右されます。認められない場合でも、任意削除の再検討や、通常訴訟での差止めなど別手段を検討する余地があります。
削除仮処分だけで投稿者(加害者)は特定できますか?
通常、削除仮処分は投稿者特定の手続ではありません。投稿者を特定したい場合は、発信者情報開示請求などを別途検討します。
再投稿が心配です。同じ内容がまた投稿されたら?
再投稿や転載が起こり得るケースでは、削除後のモニタリングや、サービスごとの通報・削除ルートの確認が重要です。再投稿が繰り返される場合は、別の法的措置(開示や賠償、場合によっては刑事手続の検討)も視野に入ります。
どの段階で弁護士に相談すべきですか?
「削除依頼が通らない」「拡散している」「企業活動や生活への影響が出ている」「投稿者特定も考えている」といった場合は、できるだけ早い段階での相談が有益です。証拠の残し方や手続の選択を誤ると、後から取り返しがつかないこともあるためです。
まとめ
- 削除仮処分は、裁判所の手続で投稿削除を早期に実現するための選択肢
- 「権利侵害」と「今すぐ削除が必要な事情(緊急性)」を示すことが重要
- 対象投稿の特定(URL等)と証拠確保は、申立ての前提になる
- 費用は裁判所実費・担保金・弁護士費用の組み合わせで決まる
- 削除と投稿者特定(開示)は目的が異なるため、方針を整理して動く





