「別れさせ屋は違法なのか」「別れさせ工作の契約は無効にならないのか」と疑問に思って検索する方は少なくありません。配偶者や交際相手との関係、元交際相手への未練、不倫相手との関係解消など、背景事情はさまざまですが、第三者が人間関係に介入する以上、法律上も倫理上も慎重に考える必要があります。
結論からいえば、別れさせ屋や別れさせ工作が、契約名だけで直ちにすべて違法・無効になるとは限りません。もっとも、これは「安心して利用してよい」という意味ではありません。方法や目的、対象者との関係、説明内容、料金体系によっては、公序良俗違反による契約無効、不法行為、刑事上の問題、返金トラブルなどが生じる可能性があります。
この記事では、大阪地裁平成30年8月29日判決を中心に、別れさせ工作契約がどのように判断されたのか、探偵・調査業界団体がどのような立場を示しているのか、そして不倫相手との関係解消を望む場合に弁護士がどこまで対応できるのかを整理します。
- 別れさせ屋は、契約名だけで当然に違法とはいえませんが、方法次第で違法・無効になり得ます。
- 大阪地裁平成30年8月29日判決は、個別事情の下で公序良俗違反までは認めませんでした。
- 探偵・調査業界団体は、別れさせ工作を探偵業務とは別物として扱う立場を示しています。
- 不倫相手との関係解消を望む場合は、別れさせ工作ではなく慰謝料請求・接触禁止・誓約書による任意交渉を検討する場面があります。

- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
Contents
別れさせ屋は「違法ではない」
別れさせ屋についてまず押さえるべきなのは、問題が一つではないという点です。「違法か」「合法か」という二択で語られることがありますが、実際には、少なくとも次の問題を分けて考える必要があります。
- 別れさせ工作を依頼する契約が、公序良俗違反として無効になるか
- 実際の工作方法が、プライバシー侵害、名誉毀損、脅迫、住居侵入などの問題を生じないか
- 料金説明や成功条件が不明確で、返金・報酬請求トラブルにならないか
- 依頼者自身が、違法・不当な方法に関与したと評価されないか
大阪地裁平成30年8月29日判決は、このうち主に「別れさせ工作委託契約が公序良俗に反して無効か」という問題を扱った裁判例です。この判決を踏まえると「別れさせ屋は少なくとも民事上は違法ではない」と整理することができます。
法律上は、契約の目的や実施方法が社会的相当性を著しく欠く場合、民法90条の公序良俗違反として無効になることがあります。しかし、当該判決は別れさせ屋の業務が公序良俗違反とまでは認めませんでした。
ただし、契約が有効かどうかとは別に、実際の行為が他人の権利を侵害すれば、不法行為や犯罪が問題になり得ます。つまり、別れさせ屋については、契約として無効かという問題と、工作方法そのものが違法かという問題を分けて検討する必要があるのです。
別れさせ屋・別れさせ工作とは何か
別れさせ屋とは、一般に、特定の男女関係や交際関係を終了させることを目的として、調査や工作を行う業者を指す俗称です。法律上、統一的な定義がある言葉ではありません。実際にどのような行為を行うかは業者や契約内容によって異なります。
典型的には、次のような類型が考えられます。
- 対象者の行動、交際状況、連絡状況などを調べる調査型
- 工作員が対象者や交際相手に接触し、人間関係に影響を与えようとする接触型
- 恋愛感情、嫉妬、二股の疑いなどを利用して関係悪化を狙う心理誘導型
- 虚偽情報、暴露、威迫、肉体関係の利用などを伴う高リスク型
調査だけであっても、探偵業法上の届出や調査方法の適法性が問題になることがあります。まして、第三者が対象者に接触して心理的に誘導する場合には、相手方の自由な意思決定、人格、名誉、プライバシーを侵害しないかが重要になります。
この記事では、具体的な工作手順や成功方法は説明しません。法律事務所の記事として必要なのは、工作のノウハウではなく、どのような点で契約無効や違法性が問題になり得るかを理解することだからです。
大阪地裁平成30年8月29日判決の事案
大阪地裁平成30年8月29日判決は、「別れさせ工作委託契約」と呼ばれる契約について、公序良俗違反による無効が争われた事案です。第一審の大阪簡裁平成30年1月12日判決を控訴審が維持したものです。
事案の大枠は、次のようなものでした。依頼者は、以前交際していた女性との復縁を希望していました。その女性には新しい交際相手がいたため、依頼者は、探偵業者側に対し、その女性と新しい交際相手との交際を終了させることに関する協力を依頼しました。
契約では、着手金が80万円、目的達成時の成功報酬が40万円とされていました。また、事前の調査として、対象男性の人相や住所を特定する調査も行われていました。契約関係者である依頼者、指定女性、対象男性はいずれも独身であったとされています。
当初の工作内容は、女性工作員を対象男性に近づけ、対象男性に恋愛感情を抱かせて、指定女性に別れを告げさせる方向のものでした。その後、依頼者の提案により、対象男性が女性工作員と浮気している事実を指定女性に暴露し、指定女性が対象男性と別れる方向に仕向ける内容に変更されました。
実際には、対象男性と指定女性がいる電車内に女性工作員らが乗り込み、その後、喫茶店で話をして、対象男性が女性工作員と食事をしていたことなどを伝えたとされています。指定女性と対象男性の交際は、遅くとも契約期間中に終了したと認定されました。
その後、業者側が依頼者に対して残金70万円の支払いを求めたのに対し、依頼者側は、別れさせ工作契約やこれに付随する調査契約は公序良俗に反して無効であるなどと主張し、既払金の返還を求めました。
裁判所はなぜ公序良俗違反を否定したのか
大阪地裁平成30年8月29日判決は、この事案について、契約等が公序良俗に反するとまではいえないと判断しました。重要なのは、裁判所が「別れさせ屋一般」を一括して肯定したわけではなく、あくまでその事案の契約内容と実施方法を見て判断したという点です。
判決で重視された事情としては、次の点が挙げられます。
- 関係者がいずれも独身であったこと
- 目的達成のために、関係者の人格や尊厳を傷付ける方法が想定されていたとは認められなかったこと
- 関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められなかったこと
- 実際に行われた方法も、女性工作員が対象男性と食事をするなどという範囲であったこと
- 契約等は、関係者の自由な意思決定の範囲で行うことが想定されていたと評価されたこと
第一審も、別れさせ工作のすべてが公序良俗に反するとはいえないとしつつ、契約の目的、依頼者・対象者などの関係者の配偶者の有無、工作の内容・方法などが著しく社会的相当性を欠き、当事者の意思決定の自由を奪ったり歪めたりするような場合には、公序良俗に反することがあると述べています。
この整理から分かるのは、裁判所が問題にしたのは「別れさせたい」という目的だけではなく、どのような人間関係に、どのような方法で、どの程度介入したのかという点です。独身者同士の交際関係に関する事案で、肉体関係や強制的接触が認められなかったという事情が、結論に影響しています。
この判決は「別れさせ屋は適法」と理解できる
大阪地裁平成30年8月29日判決は、別れさせ工作契約が公序良俗に反しないと判断した裁判例として紹介されることがあります。しかし、この判決を「別れさせ屋は違法ではない」と理解できても、別れさせ屋は問題ないから利用してよい一般化して読むのは危険です。
理由は大きく三つあります。
個別事案の判断にすぎない
裁判所は、あくまでその事案の契約内容、関係者の属性、工作方法、実施状況を前提に判断しています。対象者が既婚者である場合、肉体関係を利用する場合、威迫や暴露に近い方法を用いる場合、虚偽の事実を広める場合などには、結論が変わる可能性があります。
契約が無効でないことと、業務として安全なことは別問題
ある契約が特定の事案で公序良俗違反とまではいえないとされたとしても、それは利用者にとって安心・安全なサービスであることを意味しません。料金が高額で、成功条件が曖昧で、実際に何をしたのか分かりにくい契約であれば、返金や報酬をめぐるトラブルは起こり得ます。
実施方法によっては別の違法性が問題になる
公序良俗違反による契約無効が否定されても、具体的な調査・接触・暴露の方法によっては、プライバシー侵害、名誉毀損、脅迫、住居侵入、ストーカー規制法上の問題などが生じる可能性があります。依頼者が違法・不当な方法を求めたり、これを認識しながら協力したりすれば、依頼者側の責任も問題になり得ます。
別れさせ工作が問題になりやすい場面
別れさせ工作が違法・無効と評価されやすくなるのは、相手方の自由な意思決定や人格的利益を不当に侵害する方向に進む場合です。たとえば、次のようなケースでは、特に慎重な検討が必要です。
- 対象者をだまして肉体関係を持たせる、又は肉体関係を工作手段として利用する場合
- 対象者の意思に反して接触を続ける、待ち伏せする、つきまとう場合
- 虚偽の事実を流す、勤務先や家族に暴露するなどして社会生活上の不利益を与える場合
- 不倫、交際、金銭関係などの弱みを利用して相手を威圧する場合
- 既婚者の家庭生活や婚姻関係に、過度に介入する場合
- 成功条件や料金体系が曖昧で、実際の稼働内容が確認できない場合
また、依頼者の目的によっても、法律上・倫理上の評価は変わります。単に「好きな人と付き合いたいから、その人の現在の交際関係を壊したい」という目的は、法的請求として整理しにくく、弁護士が関与して解決できる問題ではありません。親族が成人した子の交際や婚姻を壊したいというケースも、本人の意思や人格的利益への干渉が大きく、法律上の請求として組み立てにくいのが通常です。
探偵・調査業界団体のスタンス
裁判例上、個別事案で公序良俗違反が否定されたことと、探偵・調査業界が別れさせ屋を推奨していることは別です。むしろ、業界団体は別れさせ工作に対して厳しい見方を示しています。
日本調査業協会は、過去に「別れさせ屋に準じた事案」について、正会員には受件しないこと、広告掲載をしないことを指導してきたと説明しています。同協会は、その理由として、公序良俗に反すること、調査手法によっては刑法・弁護士法・民法などに抵触するおそれがあること、依頼者も処罰対象になり得る可能性があることを挙げています。
同協会は、探偵業法施行後の説明として、この種の「工作」は探偵業務とは認めていないとも述べています。また、同協会の不適切文言の一覧には、「別れさせ屋」「別れさせ工作」「縁切り屋」「復縁工作」「出会い工作」などが掲げられています。
東京都調査業協会のコラムでも、別れさせ屋などの工作行為を禁止している理由として、探偵業法の範疇にない業務であることや、トラブルが多いことが指摘されています。
このような業界団体のスタンスを踏まえると、別れさせ屋については「裁判例で常に無効とはされなかった」という一点だけで判断するのではなく、探偵業務として適切に位置付けられているのか、業務内容が透明か、依頼者自身がリスクを負わないかを慎重に見る必要があります。
返金・詐欺的業者トラブルで問題になりやすい点
別れさせ屋をめぐるトラブルでは、違法性の問題だけでなく、返金や報酬請求が問題になることもあります。大阪地裁平成30年8月29日判決の事案でも、業者側が残金を請求し、依頼者側が契約の無効や返金を主張する形で争いになりました。
特に注意すべきなのは、次のような点です。
- 着手金、調査費用、成功報酬の区別が曖昧になっている
- 成功条件が「別れた場合」なのか「一定期間連絡しない場合」なのか明確でない
- 実際にどのような調査や工作をしたのか、報告内容から確認できない
- 契約前の説明と契約書の記載が食い違っている
- 「必ず成功する」「相手を確実に別れさせる」など、過度な勧誘がある
もっとも、返金トラブルがあるからといって、すべての別れさせ屋契約が当然に詐欺や無効になるわけではありません。返金請求の可否は、契約書、説明内容、支払時期、業務報告、成功条件、実際の稼働状況などを具体的に見て判断する必要があります。
すでに契約してしまった場合には、感情的にやり取りを重ねる前に、契約書、領収書、振込記録、メッセージ、報告書、広告ページの保存など、後から事実関係を確認できる資料を整理しておくことが重要です。
不倫相手との関係解消なら、別れさせ工作ではなく法的交渉を検討する
ここまでの話は、別れさせ屋や別れさせ工作の契約・業務に関するものです。他方で、読者の中には「配偶者と不倫相手との関係をやめてもらいたい」という現実的な悩みから、別れさせ屋を調べている方もいるはずです。
この場合、別れさせ工作ではなく、慰謝料請求、接触禁止条項、誓約書、示談交渉といった法的な方法を検討できることがあります。たとえば、不倫相手に対して慰謝料請求を行い、示談の中で今後の接触・連絡を控える条項を合意する方法です。
ただし、ここでも重要なのは、弁護士が相手方の意思に反して交際関係を強制的に断ち切るわけではないという点です。弁護士が行うのは、法的請求としての慰謝料請求や、任意の合意形成を目指す交渉です。相手方の人格や生活を不当に侵害する方法、勤務先や家族への暴露を交渉材料にする方法、威圧的な方法は当然ですが行ってはいけません。
不倫関係に関する裁判例では、慰謝料請求が認められても、相手方と配偶者が会うことや同棲することを直接差し止める請求までは認められにくいことがあります。大阪地裁平成11年3月31日判決でも、不貞相手に対する慰謝料300万円は認められましたが、夫との同棲や面会の差止請求は棄却されています。この点からも、裁判で人間関係を直接コントロールすることには限界があるといえます。
それでも、示談交渉であれば、当事者の任意の合意として、今後の接触禁止、連絡禁止、違約金条項、誓約書などを定める余地があります。配偶者と不倫相手との関係をやめてもらいたい場合の考え方は、不倫相手と別れさせたい方へ|慰謝料請求・接触禁止・誓約書でできることで詳しく整理しています。
肉体関係の証拠が弱い場合も、目的を分けて考える
不倫相手との関係解消を考える場面では、「肉体関係の証拠がない」「LINEやSNSのやり取りしかない」「二人きりで会っていることは分かるが、不貞行為までは立証しにくい」というケースもあります。
この場合、裁判で高額な慰謝料を獲得できるかという問題と、任意交渉で今後の接触・連絡を控える合意ができるかという問題は分けて考える必要があります。肉体関係の立証が弱い場合、裁判上の慰謝料請求は難しくなることがあります。しかし、相手方が交渉に応じる余地がある場合には、関係解消や再発防止を主目的として、請求額や通知文、交渉方針を慎重に設計することが考えられます。
証拠が弱いケースでは、過大な請求や断定的な通知をすると、かえって紛争を悪化させるおそれがあります。裁判で勝てるか、示談でどのような合意を目指すか、相手方が否認した場合にどう対応するかを分けて検討することが重要です。肉体関係の証拠が弱い場合の交渉については、肉体関係なし・証拠なしでも不倫相手と別れさせたい|慰謝料請求が難しい場合の交渉も参考にしてください。
弁護士に相談できるケース・できないケース
「別れさせたい」という言葉だけを見ると、弁護士に相談できるケースと、弁護士が対応しにくいケースが混在します。ここを分けておくと、別れさせ屋と弁護士業務の違いが分かりやすくなります。
弁護士に相談を検討しやすいケース
典型的には、配偶者と不倫相手の関係をやめてもらいたいケースです。不倫された配偶者が、不倫相手に対して慰謝料請求を行い、示談の中で今後の接触・連絡を控える合意を目指すことがあります。
この場合、弁護士の役割は「別れさせ工作」ではありません。不倫慰謝料請求の根拠、証拠の強さ、請求額、通知書の文面、接触禁止条項、誓約書、違約金条項などを検討し、相手方との任意交渉を進めることです。
また、「別れさせ屋」とはやや異なりますが、自分自身が不倫相手(愛人)と別れたい場合にも弁護士に相談することをおすすめします(参考:手切れ金とは?相場・払う義務・不倫相手から請求された時の対応)。
弁護士では対応しにくいケース
一方で、好きな人と付き合うために、その人と現在の交際相手を別れさせたいというケースは、法的請求として整理することが難しいのが通常です。義理の親が息子と妻を別れさせたい、親が成人した子の交際相手と別れさせたい、友人の交際関係を壊したいといったケースも、本人の意思や人格的利益に対する干渉が大きく、弁護士が「別れさせる」目的で関与することはできません。
この線引きは重要です。弁護士が対応できるのは、法的請求や任意の合意形成として整理できる問題です。第三者の恋愛関係を意図的に壊すこと自体を目的とする依頼は、法律事務所の業務として扱うべきものではありません。
まとめ
別れさせ屋が違法かどうかは、単純に「違法」「合法」と二分できるものではありません。大阪地裁平成30年8月29日判決は、個別の事案において別れさせ工作契約が公序良俗に反するとまではいえないと判断しましたが、その結論を広く一般化することはできません。
- 別れさせ屋契約は、契約名だけで当然に無効とは限りません。
- ただし、目的、対象者、配偶者の有無、工作方法によっては、公序良俗違反や不法行為が問題になります。
- 探偵・調査業界団体は、別れさせ工作を探偵業務とは認めない、又は推奨しない立場を示しています。
- 返金・報酬請求トラブルでは、契約書、説明内容、成功条件、稼働報告の確認が重要です。
- 配偶者と不倫相手との関係解消を望む場合は、別れさせ工作ではなく、慰謝料請求・接触禁止・誓約書を通じた任意交渉を検討する場面があります。
別れさせ屋を利用するかどうかを考えている場合には、「裁判例で無効とされなかったことがある」という一面だけで判断しないことが重要です。特に、不倫相手との関係解消を望む場合には、違法・不当な工作ではなく、法的請求と任意の合意形成という枠組みで整理できるかを検討してください。
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実際に配偶者の不倫相手との関係をやめてもらいたい場合には、別れさせ工作ではなく、慰謝料請求、接触禁止条項、誓約書などを通じた示談交渉が問題になります。関連する解説は、以下の記事で詳しく整理しています。
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