「不倫相手として慰謝料を請求されたが、連絡してきたのは探偵や調査会社だった」「探偵が慰謝料額や支払期限を決め、示談書へのサインを求めてきた」。このような場合、相手方本人からの請求というだけでなく、探偵による非弁行為が問題になることがあります。

探偵が不倫の証拠を集めること自体と、慰謝料請求・示談交渉・示談書の内容を決めることは別です。探偵が報酬を得る目的で、不倫慰謝料の金額、支払条件、示談書の内容などについて代理交渉をしている場合は、弁護士法違反が問題になり得ます。

この記事では、探偵が不倫慰謝料の請求や交渉に関与できる範囲、非弁行為になりやすいケース、請求された側が確認すべきポイントを整理します。

  • 探偵は不倫の証拠収集を行うことはありますが、慰謝料請求の代理交渉は原則としてできません。
  • 本人が自分で慰謝料請求をすることは可能ですが、探偵や第三者が報酬を得て交渉を代行する場合は別問題です。
  • 探偵が慰謝料額、支払期限、示談書の内容を決めている場合は、非弁行為を疑うべきです。
  • 非弁行為が疑われても、示談書が当然に無効になるとは限らないため、資料を保存して弁護士に相談することが重要です。
執筆者:弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

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探偵が不倫慰謝料を請求・交渉することはできるのか

結論からいうと、探偵が不倫の事実を調査し、調査報告書を作成することと、慰謝料請求や示談交渉を代理することは分けて考える必要があります。

不倫慰謝料の請求は、当事者本人が自分で行うことはできます。たとえば、配偶者に不倫された人が、不倫相手に対して自分の名前で慰謝料を請求し、話合いをすること自体は、弁護士に依頼しなければならないわけではありません。

しかし、本人ではない探偵や調査会社が、報酬を得て、本人の代わりに慰謝料請求を行い、金額や支払条件を交渉し、示談書の内容を決めるとなると、弁護士法72条の非弁行為が問題になります。

つまり、ポイントは「不倫の証拠を集めた探偵がいるか」ではなく、その探偵が法律上の紛争である慰謝料請求の交渉にどこまで関与しているかです。

非弁行為とは何か

非弁行為とは、弁護士ではない者が、報酬を得る目的で、法律事件について法律相談、代理交渉、和解などの法律事務を業として行うことをいいます。東京弁護士会も、非弁行為について、弁護士ではない者が報酬目的で法律事件について法律相談や代理交渉などを業として行うことと説明しています(東京弁護士会「非弁行為とは」)。

弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱うこと等を業とすることを禁止しています(e-Gov法令検索「弁護士法」)。

最高裁大法廷昭和46年7月14日判決も、弁護士法72条について、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、業として法律事務を取り扱うことや周旋することを禁止する規定であると示しています。趣旨は、資格や規律のない者が他人の法律事件に介入し、当事者の利益や法律秩序を害することを防ぐ点にあります。

不倫慰謝料の請求は、単なる感情的な話合いではなく、損害賠償請求、証拠評価、慰謝料額、支払条件、違約金、接触禁止条項などが問題になる法律上の紛争です。そのため、探偵が本人の代理人のように交渉すれば、非弁行為が問題になりやすい分野といえます。

探偵ができること・できないこと

探偵が関与しているからといって、直ちに違法になるわけではありません。探偵業者は、探偵業法に基づき、所在調査や行動調査などを行うことがあります。不倫の場面では、配偶者と不倫相手の接触状況、宿泊、出入りなどを調査し、報告書を作成することがあります。

探偵が行うことがある業務

一般に、探偵の業務として問題になりにくいのは、証拠収集や事実調査の範囲にとどまる行為です。

  • 不倫の疑いがある相手の行動を調査する
  • ホテルや自宅への出入りなどを写真・動画で記録する
  • 調査報告書を作成する
  • 調査結果を依頼者本人や弁護士に渡す
  • 調査費用や調査方法について説明する

これらは、慰謝料請求の前提となる事実を確認するための調査業務です。ただし、調査方法が違法であれば別の問題が生じるため、探偵であればどのような調査でも許されるという意味ではありません。

探偵が行うと危険な業務

一方で、次のような行為は、法律事件に関する代理交渉や法律事務として、非弁行為が問題になり得ます。

  • 不倫相手に直接連絡し、慰謝料を支払うよう要求する
  • 「この金額を払えば終わる」「裁判になればもっと高くなる」などと交渉する
  • 支払期限、分割回数、接触禁止、違約金などの条件を決める
  • 示談書や合意書の内容について助言し、署名押印を求める
  • 支払が遅れた場合に、本人に代わって督促や履行要求をする

特に、探偵が「依頼者の代わりに話をつけます」「示談書まで作ります」「弁護士に頼むより早く終わります」などと説明し、実際に慰謝料交渉を主導している場合は注意が必要です。

探偵の非弁行為が問題になった事案

不倫慰謝料と探偵の関与については、実際に裁判例や弁護士会の会長声明で問題になった事案があります。読者としては、「探偵が少し同席しただけ」なのか、「探偵が交渉を主導した」のかを分けて見ることが大切です。

東京地裁令和3年9月16日判決

東京地裁令和3年9月16日判決は、不貞関係に関する和解契約の効力が争われた事案です。この事案では、弁護士ではない第三者が、和解合意書の書式を交付し、被請求者に接触して交渉の場を設定し、約8時間にわたる交渉に立ち会い、和解内容について助言し、締結後にも履行を求めるメッセージを送信するなどしていました。

裁判所は、その第三者が単なる立会人ではなく、職業的に不貞関係に係る和解交渉について有償で依頼を受け、具体的な交渉を含めて関与していたものと認定しました。そのうえで、交渉態様や合意内容などを踏まえ、本件和解契約は公序良俗に反して無効であると判断しました。

この裁判例は、弁護士ではない第三者が慰謝料交渉に深く関与した場合に、示談書の効力まで争われ得ることを示しています。ただし、後述のとおり、非弁関与があれば常に示談書が無効になるという意味ではありません。

静岡地裁令和7年10月23日判決を紹介した静岡県弁護士会の会長声明

静岡県弁護士会は、静岡地裁令和7年10月23日判決について、探偵業者が探偵業務の中で得た不貞に関する情報を基に、弁護士資格がないにもかかわらず、報酬を得る目的で慰謝料請求の示談交渉の代理など法律事務を業として行っていた事案であると公表しています(静岡県弁護士会「非弁行為に関する会長声明」)。

同会長声明では、探偵業者が示談交渉の相手方に不貞を認めさせ、非常に高額な示談金を支払わせる内容の示談書に署名指印させるなどして、相手方に看過しがたい不利益を生じさせたとされています。

この事案は、探偵が調査で得た情報をもとに、慰謝料の交渉や示談書作成まで進めることが、どれほど大きなリスクを生むかを示すものです。

福井地裁令和3年3月23日判決を紹介した福井弁護士会の会長談話

福井弁護士会も、福井地裁令和3年3月23日判決について、探偵業を営んでいた者が、夫の不貞についての調査等の依頼を受けた際に、不貞相手の女性に対して多額の慰謝料の支払いを内容とする示談書を締結させた事案を紹介しています(福井弁護士会「非弁行為を行った者に対する有罪判決についての会長談話」)。

同会長談話では、探偵業者が不貞相手の女性と示談交渉を行ったことについて弁護士法72条違反とされたこと、交渉過程で脅迫が用いられ、締結された示談書には不当な内容の条項が含まれていたことなどが説明されています。

この事案は、請求された側だけでなく、探偵に依頼した請求する側も、違法行為に巻き込まれ、不当な対価を支払う結果になり得ることを示しています。

請求された側が非弁行為を疑うべきサイン

不倫慰謝料を請求された側からすると、相手方本人、相手方の配偶者、弁護士、探偵、調査会社など、誰が何をしているのか分かりにくいことがあります。次のような事情がある場合は、非弁行為や不適切な交渉を疑って慎重に対応しましょう。

探偵や調査会社が代理人のように連絡してくる

探偵が「依頼者から任されています」「私が窓口です」などと述べ、本人や弁護士に代わって慰謝料請求の連絡をしてくる場合は注意が必要です。

本人が自分で請求しているのか、弁護士が代理しているのか、探偵が代理しているのかで、法的な意味は大きく異なります。弁護士が代理しているのであれば、通常は弁護士名、法律事務所名、連絡先、委任を受けていることが明示されます。

慰謝料額や示談条件を探偵が決めている

慰謝料額、分割払い、支払期限、接触禁止、違約金、謝罪文、守秘義務などは、不倫慰謝料の示談で重要な条件です。これらを探偵が決め、被請求者に受け入れるよう迫っている場合は、法律事務への関与が問題になります。

特に、「この金額でなければ会社に言う」「家族に知られたくなければ今すぐサインしろ」「裁判になればもっと高くなる」などの発言がある場合は、非弁行為だけでなく、強迫や公序良俗違反が問題になることもあります。

弁護士名が出ているのに弁護士本人が出てこない

探偵や調査会社が「提携弁護士がいる」「弁護士にも確認している」と説明するケースもあります。しかし、実際には弁護士本人から連絡がなく、探偵や担当者だけが金額や条件を決めている場合は注意が必要です。

弁護士が関与しているように見せながら、実質的には探偵や業者が交渉を主導している場合、非弁提携が問題になることもあります。弁護士本人から正式な通知があるのか、誰が依頼を受け、誰が交渉しているのかを確認しましょう。

その場で示談書へのサインや入金を求められる

突然呼び出される、長時間帰りにくい状況に置かれる、複数人に囲まれる、スマートフォンや身分証の提示を求められる、その場で示談書への署名や振込を求められる場合は、慎重に対応すべきです。

不倫慰謝料の示談書は、サイン後に効力を争うことができる場合もありますが、原則として「合意した」という事実は重く扱われます。違和感がある場合は、その場でサインせず、持ち帰って弁護士に確認することが大切です。

非弁行為があれば示談書は無効になるのか

非弁行為が疑われる場面で、請求された側が特に知りたいのは、「もうサインしてしまった示談書を無効にできるのか」という点でしょう。

この点は、単純に「非弁だから必ず無効」「探偵が関与したから支払わなくてよい」とは言えません。最高裁平成29年7月24日判決は、弁護士法72条に違反して締結された裁判外の和解契約であっても、その内容や締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるような特段の事情がない限り、当然には無効にならないと判断しています。

一方で、東京地裁令和3年9月16日判決のように、弁護士ではない第三者が具体的な交渉に積極的に関与し、交渉態様や示談内容が相当性を欠く場合には、公序良俗違反として示談書が無効と判断されることもあります。

したがって、重要なのは、次のような事情を具体的に整理することです。

  • 探偵や第三者がどの程度交渉に関与したか
  • 慰謝料額や違約金が相場や事情に照らして著しく高額か
  • 長時間拘束、威迫、会社や家族への暴露を示唆する発言があったか
  • その場でサインや支払いを迫られたか
  • サイン後すぐに異議を述べたか、弁護士に相談したか

示談書にサインしてしまった後の効力争いについては、別サイトの記事ですが、不倫の示談書が無効になる場合とは?サイン後の取消し・裁判例・初動対応を弁護士が解説でも詳しく整理しています。

探偵から慰謝料を請求されたときの初動対応

探偵や調査会社から不倫慰謝料を請求された場合、焦ってその場でサインしたり、すぐに入金したりしないことが重要です。相手が強い口調で迫ってきても、冷静に資料を保存し、後から確認できる形にしておきましょう。

  • 相手方本人、探偵、弁護士のうち、誰が請求しているのかを確認する
  • 名刺、通知書、示談書案、請求書、調査報告書の写しを保存する
  • 電話、LINE、メール、SMS、録音、メッセージのスクリーンショットを保存する
  • その場で示談書にサインせず、支払期限や回答期限を確認する
  • 会社や家族への暴露を示唆された場合は、その発言内容も記録する

不倫慰謝料を請求された場合、実際に支払義務があるか、金額が妥当か、減額できるか、そもそも既婚者だと知っていたかなど、検討すべき点は多くあります。探偵が関与している場合は、非弁行為の問題だけでなく、慰謝料請求そのものの成否や金額も併せて確認する必要があります。

すでに示談書にサインした場合でも、直ちに諦める必要はありません。ただし、自己判断で支払いを止めたり、相手を無視したりすると、かえって紛争が大きくなることがあります。資料を整理して、早めに弁護士へ相談しましょう。

探偵に依頼する側も注意が必要です

この記事は主に請求された側を想定していますが、不倫の証拠を集めたい側、慰謝料を請求したい側にとっても、探偵の非弁行為は重大なリスクです。

探偵が「慰謝料請求まで代行します」「相手から必ず取ります」「示談書もこちらで作ります」と説明する場合、そのサービスに乗ってしまうと、請求する側も違法な交渉に巻き込まれるおそれがあります。福井弁護士会の会長談話でも、探偵に依頼した側が違法行為に巻き込まれ、不当な対価を支払う結果になったことが指摘されています。

不倫慰謝料を請求する場合は、探偵には証拠収集を依頼し、慰謝料請求や示談交渉は本人が適切に行うか、弁護士に相談するという役割分担を意識することが重要です。

まとめ

探偵が不倫慰謝料に関わる場合、調査と交渉を分けて考える必要があります。探偵が証拠を集めること自体と、慰謝料請求を代理し、示談条件を決めることは別です。

  • 探偵は不倫の調査や報告書作成を行うことがありますが、慰謝料請求の代理交渉は原則としてできません。
  • 不倫慰謝料は法律上の紛争であり、金額、支払期限、違約金、示談書の内容を探偵が決めている場合は注意が必要です。
  • 東京地裁令和3年9月16日判決では、弁護士ではない第三者の深い関与により、和解契約が公序良俗違反として無効と判断されました。
  • 静岡県弁護士会や福井弁護士会も、探偵業者による不倫慰謝料の示談交渉に関する非弁行為の事案を公表しています。
  • 非弁行為が疑われても、示談書が当然に無効になるとは限らないため、交渉経緯や資料を整理して弁護士に相談することが重要です。

探偵や調査会社から不倫慰謝料を請求された場合、相手の勢いに押されてその場でサインしないことが大切です。誰が請求しているのか、誰が条件を決めているのか、弁護士が正式に関与しているのかを確認し、少しでも不安があれば早めに弁護士に相談してください。

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